どこにそんな欲情を秘めているのだ
カトリーヌ・ドヌーヴよ
上流階級のマダムの生活に飽き足らず
春をひさぐなんて哀しすぎるではないか
いやいやあれは『昼顔』の話
映画の中のヒロインに定められたストーリー
男たちはつぎつぎと上品な隠微を買い
下劣な女に戒めを与える夢想に興奮する
ケッセルの小説を読んだろうか
セヴリーヌの苦悩を理解しただろうか
生きることの痛みはどこまで深いのか
限りない欲望の高みを推し量ろうとしただろうか
道端に咲く昼顔のなんと清楚なことか
眩いほどの緑から生まれた一重の花
純白の蕊を疑いもせず命の色を露にする
うっすらと染まるピンクに秘めた疼きに気づかぬまま
この世の嘆きはすべて落差から
この世の歓びもすべては落差が始まり
哲学も文学も文化もすべて落差から
馬小屋の藁の寝床には香りと臭いが横たわっている
カトリーヌ・ドヌーヴよ
医師の妻セヴリーヌよ
あなたたちが衣服に隠す欲望の兆しは
すでに隠しようもない
他の花に交わり日が経つにつれて
温床は紛れもなく熟していく
単純な男たちは自分の形を押し付けるが
あなたたちは雲形定規のように柔軟だ
もはやひさぐのではない
無償の償いなのだ
命をかけた開花の昼下がりに
昼顔の宿命に立ち会う証人になれ
勇気ある男は森の中に馬車を乗り入れ
昼顔の手を括って放り出し
御者に鞭打たせるがいい
恍惚の顔を仰向かせ罵詈雑言を並べるがいい
ひと時の白昼夢は去り
草むらに咲く淑やかな花を見つけるかも知れない
ひっそりと隠れ咲く花たちよ
劇場は今日も昼顔の思い出で賑わっているよ
(『昼顔』2014/06/07より再掲)
『船賃は・・・』も含めて、人間の底の底を見つめる言葉は時の流れにも古びないということのようです
梅雨明けは嬉しいんですが、今度は暑さが・・・・。
久しぶりに、県をまたいで遠出してきました。
『昼顔』『舟賃は・・・・』にコメントをいただきありがとうございました。
詩作品は再掲が続き、何度もお読みいただく結果となり申し訳なく思っております。
一区切りついたら、創作に向かいますのでよろしくお願いいたします。