どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム55 『ねんねの合歓の木』

2020-11-11 00:22:45 | ポエム

夢見るような六月の夕暮れ

白い猫が空き地を横切っていった

縄張りを見回った帰りなのか

それとも夕餉に間に合わせるためか

 

白い猫を見送ったのは今が盛りの合歓の花

吉原中の花魁に配れるほどの化粧刷毛を手に持ち

夜に向けて艶かしい時を用意する

そのくせ眠くて眠くて瞼が閉じかけている

 

幼い頃は「ねんねの木」と呼ばれ

子守り女のメソメソ泣きに付き合ったこともあったが

なんとも世間の風に慣れすぎて

人前はばからずピンクの眠りを貪ろうとしている

 

それにしてもあの白猫は気になる猫

去り際に合歓の花を見上げ

意味ありげにミャーと鳴いたものだ

記憶の尻尾にじゃれつくような鬱陶しさ

 

川原で過ごした先祖の日々が思い出される

とりわけ神流川に水が溢れたときの話をさ

あの時は首まで濁流に浸かって息もできなかった、と

ああ いやだいやだ 白猫めがねんねの夢を台無しにする

 

人生のどこかで白猫と出合ったことはないですか

凸凹した道の妖しい影の道端などで

合歓の木は半眠りの意識の中を泳ぎ

密かにエクトブラズマのような猫をつくりだしている

 

白猫が一匹 白猫が二匹・・・・

眠くて眠くてもう目を開けていられないけれど 

渇きにうなされる水無月の夜は

みずから作り出した罪に毒消しの髪飾り

  

(『ねんねの合歓の木』2015/10/13より再掲)


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