どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

どうぶつ・ティータイム(160) 映画『奇跡のリンゴ』に期待

2013-04-26 00:48:09 | コラム

 

     (それでも、やっぱり本当の奇跡は木村秋則さん)

        6月公開の映画「奇跡のリンゴ」で彼の人生が描かれる

 

    

 

 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも注目されたリンゴ農家・木村秋則さんの生き方が、今度は映画で描かれるという。

 ぼくが最初に木村さんの存在を知ったのは、東邦出版から出た『すべては宇宙の采配』(2009年8月刊)という本を読んだときで、そのきっかけは友人から田口ランデイさんの著書『マアジナル』を教えられてからだった。

 その中に苦節10年「奇跡のりんご」と呼ばれる無農薬リンゴを実らせた木村秋則さんのことが紹介されていて、農薬アレルギーの奥さんのために当時不可能と言われた無農薬リンゴに挑戦した不屈の人として描かれていた。

 『マアジナル』に登場するぐらいだから、木村さんは『すべては宇宙の采配』の冒頭で、講演会に登壇した折ナゾの白い光が自分の背後にあって会場が大騒ぎになった(後にそのときの写真に曼荼羅が写っていたといわれる)ことを記している。

 また、子供のときに見た龍の記憶、無農薬リンゴに取り組み始めてからはUFОや宇宙人とも遭遇した体験を紹介している。

 いきなり<不思議のはじまり>という章に出会った読者の多くは、木村さんの無農薬リンゴ作りの苦労話は信じても、スピリチュアル的な話には面食らったに違いない。

 かくいうぼくも、木村さんが語らんとする宇宙の法則みたいなものは理解できるのだが、実際に光のようなものに包まれたり龍の姿を目にしたりの件になると、何かの錯覚か見まちがいではないのかと思ってしまう。

 一方で『マアジナル』に登場するUFО目撃者などと共通する資質を、木村さんに見出そうとする自分がいる。

 視える者には見えるが、視えない者には見えない・・・・という可能性を信じようとしているのだ。

 それは無農薬・無肥料でのリンゴ作りに至る木村さんの経歴に、夢想的な要素が見られなかったからだ。

 例えば子供のときから、玩具を買ってもらってもすぐに分解してしまい、遊ぶことよりその仕組みに興味を持っていたことを知らされる。

 中学生のころには大出力のアンプを組み立て、学校の拡声器につないでぶっ壊してしまったりと。

 要するに木村さんはものごとを理詰めで考え、機能や成り立ちを突き止めようとする科学者的な資質の人なのだ。

 その対象は内燃機関や電気回路といった機械的なものだけでなく、書店で運命的な出会いをした『自然農法』(福岡正信著)に対する受け止め方にも現れる。

「現在の農業は間違っている。・・・・」

 福岡正信氏が実践し提唱する自然農法に触発され、家族とも相談のうえ無農薬のリンゴ作りに踏み出すのだ。

 当然のことながら病害虫の被害に遭い、樹は花も付けないほど痛めつけられ、何年にもわたって収穫なし、自分の家族だけでなく妻の家まで貧乏のどん底に追い込む始末。

 それでも木村さんは、樹の枝や葉の様子を観察し、虫の動きや嗜好にまで目を配る。

 雑草は伸び放題、刈ることもなく在るがまま、リンゴの樹の適応力を信じていたのである。

「花を咲かせなくても、実をつけなくてもいいから、どうか枯れないで耐えてください」

 万策尽きたとき、木村さんはリンゴの樹の幹を撫ぜ、言葉をかけ続けたという。

「ことばにはものすごい力がある。それをリンゴの木に教えられた」と述懐している。

 そこが木村さんの持っている稀有な資質である。

 オートバイや自動車のチューンナップに熱中したこともあるエンジニアでありながら、『すべては宇宙の采配』と受け容れる直観力にも恵まれている。

 本の中の実証写真によって、リンゴだけではなく、無農薬・無肥料の野菜と従来農法の野菜との比較も見ることができる。

 木村さんが自ら著した本の中で、九年間の苦労の末に奇跡のリンゴ作りに成功した技法と考え方を明らかにしてくれたのである。

 

 同じ年に『リンゴが教えてくれたこと』(日経プレミアシリーズ)という本も出ている。

 周囲からは「かまど消し」と云われ、長女の作文には「食べたことがないお父さんのリンゴ」と書かれていたらしい。

 <害虫と益虫の不思議なバランス> <リンゴの木の下は大豆畑>

 <ずっと見ていることが大事> <穴を掘って土の温度を測る>

 小見出しを眺めるだけでも、木村さんが観察し学んだことの素晴らしさが伝わって来る。

 それにもまして、木村さんの笑顔の写真がたまらない。

 死ぬかというところまで追い詰められた人間の表情ではない。奇跡の笑顔と言ったら言い過ぎだろうか。

 

 さて、映画の下敷きになった『奇跡のリンゴ』(幻冬舎・2007年刊)は、石川拓治著・NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班監修となっている。

 ここには、綿密な取材による無農薬リンゴ成功までの軌跡が描かれている。

 中でも、岩木山のリンゴ畑に初めて花が咲いたことを隣人から知らされたシーンは感動的だ。

「木村、畑行ったが?」

「何処の?」

「リンゴ畑だよ」

 案の定、首を横に振った。

「花咲いでるぞ」

 そう言っても、ポカンとしている。鳩が豆鉄砲というのはこの顔だ。

 

「・・・・畑を埋め尽くした満開の花を見て、私はつくづくそのことを思い知ったの。この花を咲かせたのは私ではない。リンゴの木なんだとな。」

 それが、そのときの木村さんの真実の思いである。

 最初に実ったリンゴは、ピンポン玉ほどの大きさだったという。

 そこから『奇跡のリンゴ』と呼ばれる収穫にたどりつくまでには、まだ紆余曲折がある。

 『リンゴが教えてくれたこと』 『すべては宇宙の采配』

 木村さんの本のタイトルは、長年の思いをそのまま文字にしたものだ。

 だから木村さんの語る言葉には、嘘やハッタリが紛れこむ余地はない。

 とすれば、龍を見たこと、UFОや宇宙人と接した話も信じざるを得ない。

 木村さんは、ぼくのまったく知らない受信ボックスを持った人で、リンゴ畑で修業した結果この世の森羅万象と通じ合える能力を獲得したのではないだろうか。

 映画でどこまで木村さんに迫れるか、6月公開を楽しみにしている。

 

     (おわり)

 


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