どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム172 『聡明なパームツリーよ』

2017-09-13 00:00:21 | ポエム

 

     パームツリー

    (ウェブ画像)より

 

 

 

  ハリケーンが立て続けにやってきて

  楽園を謳歌していた人びとも安泰ではなくなった

  カリブ海の島々を打ちのめした余勢を駆って

  フロリダの灯りを黒く塗りつぶした

 

  「彼らは雑草を食べてでも目的を達しようとするだろう」

  ハリケーンのさなかに突然プーチンの言葉が甦る

  呼応するかのようにマイアミが騒ぎ出す

  皮肉にも惨禍の跡がトゲとなって世界を引っ掻くのだ

 

  毛嫌いしてきた過去はまだ過去になりきれない

  狂っていると蔑んできた日々もまだ波立ったままだ

  レベル5に達するハリケーンは反乱の始まりか

  狂っているのは一人の男だけではない

 

  むかし逗子のリゾートホテルで友人と語らったことがある

  「そう言っちゃ悪いけどこの町のパームツリーは元気がないね」

  「変なこと言うなよ、川端康成のことを思い出しちゃうじゃないか」

  友人の説明でぼくは初めて事の真相を知ったのだ

 

  ハリケーンに吹き曝らされるパームツリーのシルエットは

  足元の浸水をよそに楽園の幻影を投射する

  たまたまのハプニングをやり過ごしてしまえば

  いつもの享楽人生を取り戻せるというように

 

  果たして裕福な思考に落とし穴はないのか

  恵まれた人びとの隙を突いて雑草がはびこることはないか

  東南アジアの古い家は地面に根を張ったように生きている

  ある作家が呟いた言葉がいまも耳から離れない

 

  なんと恐ろし植物たちの生命力だろう

  雑草を食べることになってもアレの開発を続けるという

  なんという苛烈な執念だろう

  草の根を掘り尽くしてでも生き延びるという宣言だ

 

  逗子の海岸道路に沿ってうな垂れていた椰子の葉よ

  おまえは自分がパームツリーかどうか悩んでいたのか

  できることなら川端先生が見据えたものを教えてくれ

  風はますます強く吹いているが髪振り乱してでも答えてほしい

  

  

 

 

 

 

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