墓場の横のアパートの真ん前に、寂れたパブがあったのです。住宅が密集しているわけでもないところに(裏は墓場だw)3軒も酒場がある。さすがニューカッスル。そのうち一軒がもっとも寂れていた。名前だけは「パンチボウル」という景気のいいものだったが。
中に入ると、奥に客がふたり別々に座っている。カウンターの店員とともに、日常の空気を壊すよそ者に目を向ける。これからここに住むので、何度か来て日常の空気に同化せねばなるまい。一杯飲みながら、動かない空気と止まった時間に身をゆだねる。煙草の煙だけがゆらゆらと動いている。…ここは異空間だ。
このパブの日中は、まるであの世みたいな空気である。もしかすると永遠にこの状態が続いているような錯覚に囚われる。あるとき酒を飲んでいると、入り口のドアが少し開いた。しかし新参の客はなかなか入ってこない。店員が微笑みながら、カウンターから出てきてその客を迎えに行った。
それはかなり高齢の夫婦であった(90は優に超えているだろう)。あまりにも老いており、自力でドアを開けて入ってこられないのだ。店員はドアを押さえて二人を中に入れた。腕を組んだ夫婦は、一歩の歩幅が10cmも進まないくらいだ。遅い…w(゜゜)w
入り口から私の前を通るまで、どれだけ時間がかかったことだろう。ジイサンは帽子に眼鏡、とりあえずヨレヨレのフロックコートを着ており、典型的な古い田舎紳士の格好だ。バアサンのほうは目が見えなかった。(しかしこのパブに来るまでは、いったいどれくらい時間がかかったのだろう???)
かなりの時間を費やして老夫婦は私を通過し、ふたつ隣の席へ向った。そこには先客の中年オヤジが座っていた。迷わずそこに座ろうとする。先客は「おお、ここに座るのか」と席を空けた。ちなみに客は3人ぐらいだったか、広い内部はガラガラなのだ。英国人は、座る場所を決めていたりするのである。老夫婦はいつもその席らしい。
さてふたりはエールを注文し、飲み始めた。ジイサンが目の見えないバアサンのために、グラスを渡してやる。次にジイサンは煙草に火をつけ、それをバアサンの口にあてがってやった。かっ…間接チッス!(*´`*)ハァハァ バアサンは嬉しそうに煙を噴き出していた。
しゃれたデート現場を長時間、S席で全幕見てしまった。墓場の横にある、天国のような劇場の物語でした。