『真理の探究』・・・マグリットの永遠のテーマである。
視覚のマジック(誤った認識)、観念の否定、深層心理における景色、様々な角度から虚偽の信憑性を露呈させる手法を暗黙の内に提示している。
この作品において改めて《真理の探求》と題している意図はどこにあるのだろう。
まず目に付くのは魚が室内の床上に立っているという不条理である。水中でしか生きられない魚の有り様に反している。
しかも魚の表面は質感を硬質なものに変換されている。
ここまでで十分、自然の摂理を否定しているが、更に水平線が魚の立像の下部に位置しているということは、魚がいくら手前にあるとはいえ、この魚は相当に巨大だと言えはしまいか。
すぐ傍に本来の居場所である海があるのに、人の手による建造物の中にいる魚は異様である。
これらの条件は総て自然の摂理に反しており、鑑賞者の眼差しを欺く虚偽である。
少なくとも、普遍性のある景色ではなく、鑑賞者の精神を揺さぶる要因を暴力的に突きつけた光景である。
「真理ではないでしょう、この景色は」マグリットは平然と問いかける。
「違うという疑惑から見える景色こそが『真理の探究』への窓口なのです。景色の恒久性は有るかもしれないし、無いかもしれないのですから・・・」
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)