『青春の泉』、堂々たる墓石に刻まれた《ROSEAU》とは葦(考える葦/パスカル)のことらしい。
右には例の葉の変容、左には巨大と思われる鈴、空は異様に赤い。
これらの条件を『青春の泉』と称している。
青春・・・地球の青春という意味だろうか、遥か未来から見た若かりし頃の地球の墓標である。かつて、ずうっと昔、まだ地球の創生期ともいえる頃の記念碑。
「人は考える葦だと言い、一羽の鳩がオリーブの葉を口に加えて戻った所から、箱舟に残された雌雄一対だった動物が大家族にまで増殖して世界を広げていったらしい」と、超未来人たちは墓標を前にして密やかにも語り合う。
「言葉だよ、あの巨大な鈴の口から放たれる言葉という威力が若き地球を世界にまとめ上げたんだよ。直立した一葉、葉の中にあるのは葉脈でなくて、地中に在るべき根だろう、逆転というより嘘なんだ。言葉の中には欺瞞が大いに幅を利かせていたということだと思うよ。」まことしやかに超未来人たちは若かりし頃の地球を想像する。
超未来の空は赤く燃えているのだろうか、地平線は淡いブルーと赤の混色である。超未来人が語る《青春の泉》の時代とは隔した状況なのに違いない。ここでは現在の地球は、墓標に見る過去/古代なのである。
《湧き出でる泉のごとく休みなく喧々囂々天地をひっくり反すような虚実の混迷があったのではないか》超未来人たちの想いを描いたマグリットの夢想である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)