『模範例』
単色(赤/オレンジ)のバックにごく一般的な紳士の様相が描かれている。
マグリットの作品には約束がある、その一つはバックの彩色で、海などが描かれる場合は過去および現在、単色の場合は微妙に差異のある未来だと思う。年代を表明できないような未来であるが、必ずや訪れるに違いないと想定された超未来である。しかし、確定ではなくあくまで空想の範疇を出ないものである。
その未来人から見た現在の一般男性である勤め人の様相。
わたし達は古代人たちの様相を空想を交えて描かれた図(サンプル)を教科書などで見ることがある、古代人すべてが同じだったとは思えないが、毛皮を身に着け槍を持った姿が一般的である。
(ああ、あんな風だったんだな)と納得するが、地域や慣習による差異は当然あったに違いないし、遡って獣のような姿の原人を教えられることもある。
要するにそういうことである。
超未来人たちが、すでに過去の人になった現代人を想定した《模範例》なのである。もちろん現代に生きているわたし達には数多の服装があり、一つに集約することは出来ない。
しかし、いつの日か、遠い未来に(模範例)とされる任意の様相が選抜され、並べて同じように理解される日が来るとも限らない。時代の流れ、解釈とはそのようなものではないか。
単に偶発的に選択される何かがまことしやかに《実例》となって、世間に踏襲されていく。それが観念という固定的な意識内容として認可されていくのである。
(わたし達はそれを十分疑ってもいいはずである)と、マグリットはつぶやく。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)