『エルシノア』
生い茂った森(緑)を人為的にカットし、城郭の形を想起させている。地面はやわらかな若草のようにも見えるが、空は奇妙に白っぽく上部は紫いろに変化し、隙間からわずかに青空がのぞいてる。空と大地の境界はブルー、つまり海を暗示しているのかもしれない。
この景を『エルシノア』と称している。エルシノアとは何だろう。
幻の城郭、森のように見える内部があるのに対し、外観は薄っぺらな一枚の面でしかない。窓(開口部)から覗くのは外部の空と同じであれば、立体的な建屋でないことは明明白白、一枚の平面である。
作品の中央部に目を凝らせば深い森であり、全体を見渡せば切り取られた城郭に見える。物見やぐらの開口部ということは、こちらを疑心暗鬼に見張る眼差しを想像させるに足りるものであるが、そこには外部(空)と共通した虚空が見えるばかり、建屋全体が虚構なのである。
見えるものは幻の虚構である。
城郭は真に城郭であるのか、城郭(権威)は風に揺れる葦のような儚いものではないか。
強固に見える、そのことでさえ、実は疑わしいのではないか。
マグリットは、その眼差しを問う。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)