『炎の帰還』
一輪のバラを持ち頬杖をついた山高帽の男が街を俯瞰している。
地も空も赤く染まっているが情熱の赤というよりも怒涛の憤怒、大いなる否定のために再来したと言う感じである。
「違う!」と男は全身で主張している。男は巨体をもって街(社会)に表れたが、決して踏みつぶそうなどとはしていない。黒いスーツ姿ではあるが、軽く、重さのない幽体である。
帰還、以前確かにこの場所に存在していたのだけれど、今再び炎をもってこの場所に帰ってきた男、マスクで隠された正体は明確ではない。炎、焼き尽くそうというのだろうか、否、「全否定」で燃えている。
しかし、ロマンを持ち、正装であり、頬杖をついた達観の姿である。
悪(混乱)へのあくなき挑戦、正義だろうか。
街(秩序)を俯瞰している、観念、常識への失笑だろうか。
巨きなエネルギーを携えて、変革を狙っているのだろうか。
答えなき『炎の帰還』、熱く語ろうとしている内実は推し量れない。
しかし、大いなる活性、莫大なるエネルギーを以て街(社会)を俯瞰し、沈思黙考、前を見つめている。
「進め、突き破るのだ」彼は静かに微笑んでいる。
写真は『マグリット』展・図録より