「多神教と一神教」本村凌二著(岩波新書) 2005年9月21日刊(税抜き740円)
人類最古の文明=メソポタミアの宗教は、人生肯定の快楽主義であった。そこで生まれたさまざまな豊穣と多産の地母神は、やがてイシュタル(原義は、女性器・天)という女神信仰へと収斂されていった。イシュタルは、豊穣と愛(愛欲)と戦争をつかさどる大いなる女神であった。
イシュタル信仰は、フェニキア人のアシュタルテ女神、ギリシャのアフロディテ女神、ローマのウェヌス(ヴィーナス)女神信仰に連なるもの。
この女神像に代表される「多神教」が人類文明の「ふつう」の姿であったのだが、
?ソクラテスが「パイドロス」の中で指摘した文字=書き言葉の発明・普及と、?社会的抑圧が「一神教」へのとびらを開いた。
一神教の成立は、単一神への個人崇拝が、集団崇拝になり、さらに他の神々に対して排他的になるときに誕生する。一神教とは、人類の歴史にとって極めて特殊で例外的な現象であるのだが、現在キリスト教とイスラム教は、世界宗教として地球人口の大半を覆っている。例外が通例になったといえる。このことは、今日の地球世界に最大級の緊張を強いている。
以上が本書のおおざっぱな輪郭線です。古代史研究家による巨視的な人類の「心性史」は、閉塞感に支配された時代にはとても有益だと思います。ご一読をお勧めします。
武田康弘