★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

蝦蟇は真平に○○て

2018-07-16 22:21:13 | 文学


安倍晴明は陰陽師であるが、昔からこういう怪しげな術を使う輩をお偉方はありがたがって登用しておった。明治になってから、陰陽道みたいなのは邪宗であるからというのでお取りつぶしになったが、田舎に行くと晴明神社の名残はかなりあるし、最近は漫画や映画でおおはやりである。

この清明がいやなのは、案外役に立つことをやらかすからで、まさに実学野郎であるところである。現代の魔法使いもなんだか幇間だなにやら悪口を言われているようであるが、確かに、清明のおかげであるかもしれない。

『今昔物語』の24-16にでてくる時には、そんなに派手な活動をしていない。まず、鬼に襲われそうになった師匠の危機を救った。(その実、師匠を起こしただけ)それから、あるお坊さんがからかいに来たのを見破って、相手の式神を隠してしまった。また、貴族に頼まれて蝦蟇を少々殺した。それだけである。最後の蝦蟇の場面は、

庭より蝦蟇の五つ六つばかり踊りつつ池の辺りざまに行きけるを、君達、「さは、あれ一つ殺し給へ。試みむ」と言ひければ、晴明、「罪造り給ふ君かな。さるにても試み給はむとあれば」とて、草の葉を摘み切りて物を読むやうにして蝦蟇の方へ投げ遣りたりければ、その草の葉、蝦蟇の上にかかると見けるほどに、蝦蟇は真平に○○て死にたりける。僧どもこれを見て、色を失ひてなむおぢ怖れける。

てな感じである。肝心な場面で本文に欠損があって、「○○て」が何か空恐ろしい感じを逆に出しているが、まあ殺しただけである。だいたい、「蝦蟇の五つ六つばかり踊りつつ池の辺りざまに行きける」が怪しすぎる。こいつらこそ式神かなにかではなかろうか。はじめから「真平」なのではないか?

結局、彼は師匠を大事にして出世した御用学者ではなかったであろうか。いまは、清明によらなくとも蝦蟇はときどき真平になって道路に死んでいる。



ベースラインがすごい……