暑いので、本を読んでいてもくだらない妄想しか浮かんでこない……
苦学寒夜紅涙潤襟
除目後朝蒼天在眼
『今昔物語集』で、紫式部の父親である藤原為時は、出世が滞っているときに、その怨み節を上の漢詩にして朝廷に訴えた。すると道長が感激して身内の人事を覆し、福井の長官の職を為時に与えてしまったのである。
人々はこの顛末に感動したというが、わたくしは上の漢詩がたいしたものとは思えないのである。むしろ非常に嘘っぽい下品な作品に見える。思うに、道長としては、こういう「一生懸命ないまいちなやつ」なら脅威を覚えずにすむし、「ツカエル」と思ったのではなかろうか。
今も昔もこういう上司と部下は上の方にごんにょごにょと生息しているであろう。そして、汚い父親世代の作り上げた安定した秩序の中で、文芸的天才が生まれ、その欺瞞的世界を暴き出すのである。
いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて 時めき給ふありけり。
天才は、父親達の多くの出世を、身分の低い女御のときめき給うたったそれだけのことで無意味に突き落とすのである。