『今昔物語集』巻二十五の「源頼信朝臣男頼義射殺馬盗人語」は確か教科書に載った話である。いかにもわれわれの好きそうな話である。
あるすばらしい馬がいるというので、是非よこせと早速馬主に申し入れた。馬主は断れない。馬をもらってきた頼信であったが、それを子どもの頼義が聞きつけて父親の元にやってくる。しかし馬を狙っているやつは、こいつだけではない。本職の盗人もいた。夜になって、そのプロの盗人が首尾よく馬を盗んで逃走すると、首尾よく目を覚ました親子は無言で盗人を追いかけ、「ほれそこだ」と頼信が言い終わらないうちに頼義の弓が盗人を貫く。「やったぞ、取り返してこい」と親父はそのまま寝床に帰る。息子も馬を無事に家来に引き渡す……。起きて馬をみてみると、さすがに名馬だ、鞍までついている。じゃあいただきます、と頼義は首尾よく馬を持って帰るのであった。
「怪しき者共の心ばへ也かし。兵の心ばへは此く有けるとなむ語り伝へたるとや。」
ここには、荒木井端の連係プレーみたいなものはありますが、親子の対話というものがありません。はっきりしていることは、この話に出てくるのは、馬を育てた哀れな人と、馬の盗人三人だということです。一番巧妙なのは、息子でしょう。一番楽して馬をもらっています。この調子では、ちょっと難しい話になったら、親子が殺し合うのは目に見えてます。
非常につまらない話であるが、これを教科書に載せる人間の心が一番つまらない。