なあむ

やどかり和尚の考えたこと

巣鴨の怪奇 ⑧

2010年07月19日 16時12分05秒 | 巣鴨の怪奇

どう考えても意味が分かりません。

何故に、Tシャツとパンツ一丁で、履き物も履かず、行ったこともない隣の道場に、どこからか入って、みんなが寝ている間にころんと寝る、なんてことが起こり得たのか。

もしかして、彼は、テレポーテーション空間移動をしたのでしょうか。

「T理教の神様に呼ばれたんじゃないの」と、からかってみましたが、

「冗談はやめて、勘弁して」と、いつになく真剣です。

「このサンダル、返しに行かなきゃならないんだけど、三部さん一緒に来て」

と、懇願されましたが、余計な顔を出して宗教対立になっても困るし、だいたい行きたくないし、「嫌だよ」と断って蒲団を被りました。かわいそうに、彼一人で返しに行きました。

あれは今でも不思議な出来事です。

巣鴨が色んな宗教の集まる場所であるということは、何か不思議な力の渦巻いている、パワースポットなのかもしれません。

因みに、その後シゲル君に変わった様子はありませんでした。T理教に入信した様子もありませんし、別のところにテレポートしたという話も聞きません。

ただ、時折、話すことが普通ではないと感じることがあるのは、気のせいでしょうか。

もし、あなたが目覚めた時に、となりに知らない男が寝ていたら、それはシゲル君かもしれません。シゲル君なら大丈夫です、弱アルカリ性の人畜無害ですから。(終)

追伸:この連載の途中で、シゲル君から、やめて、お願い、堪忍してと懇願されましたが、こんな楽しい話を私一人の胸の中にしまっておくのはもったいないので、強行連載しました。おかげでスッキリしました。

加えて、同じような抱腹絶倒シリーズに「青春の痔」があります。まだご覧でない方は、カテゴリーから入ってご笑覧いただければ幸いです。繰り返し読んでも笑えます。


巣鴨の怪奇 ⑦

2010年07月17日 16時50分55秒 | 巣鴨の怪奇

どうせ寝ぼけているんだろうと思っていましたが、玄関に連れて行かれて、彼の指さす方を見て驚きました。そこには見慣れないゴムサンダルが置いてあります。

「よく見て!」

よく見ると、そのサンダルには何と「T理教」と書かれてあります。一瞬寒気がしました。

「どこから入ってきた」と聞かれても分からず、裏口に連れて行かれて、「何履いて来たんだ」と聞かれても履き物はないし、「これ履いていけ」と言われて、履いて来たのがこれ、と、もう泣きそうな顔をして話します。

「ぼく、三部さんと一緒にここに寝たよね」

隣に布団が敷いてあるし、抜け出したままの形ですから、寝たには間違いないと思います。

それが何故、隣の道場の広間に、どこからどうやって、謎は深まるばかりです。


巣鴨の怪奇 ⑥

2010年07月15日 17時56分44秒 | 巣鴨の怪奇

そこは、大きな板敷きの広間で、何かの道場のようでした。

「ここどこですか?」

シゲル君が恐る恐る聞いてみると、何とそこは、泰宗寺の隣にあるT理教東京教会の道場の中だったのです。

その道場で暮らしている研修生とおぼしき人々と一緒にシゲル君は寝ていたようです。

その人たちもビックリしたでしょう。起きたら変な奴が隣に寝ているのですから。

「おまえ、ここで何やってる」「どこから入ってきた」

「いや~、あの~、ぼく~、」

どう説明していいか分かりません。本人すら何故ここにいるか分からないのですから。

隣のお寺に寝て、気がついたらここに寝ていたと、意味不明の返答をして、不審がられながらも何とか帰してもらったとのこと。

「何寝ぼけてるんだよ、早く寝ろ」と布団をかぶりましたが、

「ホントだってば!ウソじゃないって!」

「こっち来て、これ見て」と、布団をはがされ、玄関に引っ張っていかれました。


巣鴨の怪奇 ⑤

2010年07月14日 09時22分47秒 | 巣鴨の怪奇

その夜も、いつものように、屋台のラーメンを食べ、巣鴨に帰って一杯やって、2時近くに寝たと思います。

ぐっすりと寝ていた私を、シゲル君が激しく揺り起こして何か叫んでいます。

「三部さん起きて!、早く起きて!」

「ん?、今何時?、6時?、何だよこんな時間に」

「いいから起きて!、ボク変になっちゃった」

いつも変なのに、と思いましたが、意外にも真剣な顔をしています。

「何だよ~、何?」

彼の話はこうでした。

シゲル君が人から起こされて目を開けると、周りに大勢の人が取り囲んでいました。

「おまえは誰だ」「ここで何をやってる」

「え?」と思って目をこすって周りを見ると、そこは全く見たことのない場所でした。


巣鴨の怪奇 ④

2010年07月12日 12時04分28秒 | 巣鴨の怪奇

五反田から巣鴨まではバイクで30分ぐらいかかります。

冬の寒い時期などは、体が芯まで冷えてしまいます。途中で屋台のラーメンなどをすすって帰るのが常でした。

巣鴨に帰り着いてから、一杯やって1時頃寝るのですが、ある時、夜中にトイレに起きたら隣に寝ているはずのシゲル君の姿がありません。

どこへ行ったんだろうと探してみると、湯船に浸かってヘヘヘと笑っている、というような、時折意味不明なところのある人でした。

そんなある日、シゲルくんに奇妙な出来事が起こりました。


巣鴨の怪奇 ③

2010年07月11日 08時11分28秒 | 巣鴨の怪奇

五反田の事務所には、難民キャンプボランティアあがりの経理担当のおじいちゃんと学生数人が入れ替わり立ち替わり顔を出していました。
専従スタッフは私一人で、朝事務所を開けて夜閉めるまでが私の勤務時間でした。
当時の仕事の内容は、山口県にいる事務局長からのFAXによる指示と、タイ事務所からの連絡を受けての調整、日本国内の難民支援、会員管理などです。
タイとの時差から、連絡はたいていが夜になり、山口からのFAXはほとんどが夜中でした。
ですから、五反田の事務所を閉めるのは、いつも終電間際の11時過ぎになります。
そろそろ帰ろうかなと思っているころ、いつも顔を出すのが当時学生だったボランティアOBのシゲル君でした。
シゲル君は、250ccの単車に乗って大学に通っていて、それまで何をしているのか知りませんが、夜になるとフラッと事務所に顔を出すのが日課でした。
ぼんやりタバコなどをふかして、「帰ろう」ということになり、12時ころ、二人でバイクにまたがって向かう先は巣鴨でした。


巣鴨の怪奇 ②

2010年07月09日 14時58分55秒 | 巣鴨の怪奇

私が、永平寺の修行を終えて、「曹洞宗ボランティア会(現シャンティ国際ボランティア会)」のスタッフとして五反田の事務所に勤めていた時、宿としていたのが、巣鴨の泰宗寺さんというお寺の離れで、言わば居候の形でした。
曹洞宗ボランティア会は、曹洞宗教団が立ち上げた難民救援団体「曹洞宗東南アジア難民救済会議」のボランティアとして現地に赴いたメンバーが、その活動を引き継ぐ形で創設した団体でした。

ほとんど資金のない、学生が中心の貧乏団体でしたが、何とか自前の事務所が欲しいということで、私が見つけてきたのが五反田のワンルームマンションでした。

永平寺に修行に行く直前でしたので、私の部屋にあった家財道具、机や椅子、テレビや冷蔵庫、電話まで、そのほとんどを持ち込んで開設した事務所でした。
修行が終わったらすぐにその事務所に勤めるという約束でしたので、永平寺から歩いて帰って間もなく、上京することになりました。
団体からの給料は月に3万円しか出せません。そこで、空いている離れを宿として無償で貸してくれたのが泰宗寺さんだったのです。


巣鴨の怪奇 ①

2010年07月08日 17時14分49秒 | 巣鴨の怪奇

東京都豊島区巣鴨は、「お年寄りの原宿」などと呼ばれています。
それは、「とげ抜き地蔵」で有名な曹洞宗高岩寺の門前通りが「地蔵通り商店街」として、地蔵さん詣りのおばあちゃんたちで賑わうからです。
そんな巣鴨には、お地蔵さんだけでなく、T理教の東京教会があったり、S価学会の大きな会館があったりします。
お地蔵さんの縁日である24日が土曜日や日曜日などと重なると、おばあちゃんたちの大群が地蔵通りに押し寄せ、S学会の会員さんたちがキラキラした目を輝かせて会館を目指し、T理教の人たちがお揃いのはっぴを着て歌い踊るという、巣鴨駅はまさに宗教のスクランブル、宗教の坩堝(るつぼ)と化すのでした。

これからお話しするのは、今から20数年前に、そんな巣鴨で起こった奇妙な実体験の物語です。