メランコリア

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『切腹』

2009-02-21 15:09:16 | 映画
『切腹』(1962)
監督:小林正樹 原作:滝口康彦「異聞浪人記」
出演:仲代達矢、岩下志麻、石浜朗、丹波哲郎、三國連太郎 ほか

近所のレンタル屋の1週間100円VHSシリーズ。まだまだ時代劇ブームはつづきます。
仲代達矢×三國連太郎の前半の禅問答のようなやりとり、そして、後半は仲代達矢×丹波哲郎の決闘など、
重い題材ながら始終緊迫したシーンの連続で見応え充分。'65カンヌ映画祭特別審査員賞受賞。

story
寛永7年。井伊家の表門に津雲半四郎と名乗る浪人が訪れ、庭先を借りての切腹を申し出た。
生活に困った武士が「切腹させてくれ」と頼み、対処に困った主人が金を渡して引き取ってもらうというたかりが流行っていて、
井伊家の家老は、以前も同じ申し出をした若い武士の話をして追い払おうとする。
その武士は実際の切腹となると「いったん家に帰らせてくれ」と懇願したが、「武士に二言は許されない」として
庭に準備をしたが、彼が持っていた刀はなんと竹光(竹を削って、刀身にみせかけたもの)。
それでもムリに腹を切らせたため、若者は苦しんだ挙句に舌を噛み切って死亡した。
話を聞いた半四郎は介錯人を指名し、指名した3人とも大病で出仕していないことが分かり、切腹を前に自分の身の上話を始める。
実は死んだ若者は娘婿で、親友の息子・岩求女であったが、主君をなくした際、親友は切腹し、息子の将来を頼まれる。
幼い頃から想い合ってた半四郎の娘・美保と岩求女を結婚させ、男子が産まれるが、その日食べるのが精一杯の上、
もともと身体の弱かった美保が臥せ、男子までも高熱を出して生死をさまようが医師に見せる金もない。
「あてがあるから夕方には戻る。息子を頼みます」と家を出た岩求女はそのまま戻らず、死体となって帰ってきた。
いきさつを知った半四郎は「岩求女は生活の為に刀も質に入れたというのに、自分はこんなものを大事にとっておいた」と号泣する。。


冷静に考えてみたら、たかりが流行ってた中で、岩求女が同じ手口だと疑うのは当然だし、
彼にそんな重い事情があるなんて知る由もなかったのだから、悶死をした責任をそのまま井伊家に押し付けるのは迷惑な話だと思うけど、
竹光で無理やり腹を切らせたことに対して人情のひとつもかけてくれなかったことに怒ったのかな。
「武士として道理を通すとゆうなら、その武士の誇りとやらが実のところどんなものか」と
武士の命より大事なを切り落として生かしておくことで、当人が恥として切腹を選ばず、
髷が伸びるまで病欠してることを指摘してやり返すとは手厳しい復讐劇。
つまるところ、腹を切るか切らないかそのものより、人の尊厳、道徳、覚悟の問題。

太平の世の中は有難くても、主君をなくした侍にとっては生計のたてようがなく、
野良仕事の斡旋所に行っても「ほかにも大勢が職を求めてるのに、刀を持った人に並ばれちゃかなわない」と断られる。
「武士は食わねど高楊枝」ってゆってもこれほど切羽詰った時代があったことに驚く。
血で汚れた家紋の屏風や、先祖として崇めていた鎧がそのまま武士の誇りの喪失を象徴している。
以前読んだ『葉隠』でも、たしか「現代の若い武士はなっとらん」みたいな苦言から始まってたけど
時代の変化の裏側にはいつも、それまでの価値観が崩れてゆく軋轢があるんだな。
てか、そもそもなぜ自殺するのに、わざわざ他人の家の庭を借りるのか、武士道のルールがフシギ



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