■土曜ドラマ『浮世の画家』
著者:カズオ・イシグロ
脚本:藤本有紀
出演:
小野益次 - 渡辺謙 妻・ミチコ 亡 息子・ケンジ 戦死
小野紀子 - 前田亜季 次女
村上節子 - 広末涼子 長女
村上一郎 - 寺田心 孫
村上素一 - 和田正人 夫
三宅二郎 - 武田航平 紀子の最初の縁談相手
信太郎 - 佐藤隆太 益次の弟子
マダム川上 - 秋山菜津子
中原康成・カメさん - 前野朋哉 同僚
森山誠治・モリさん - 小日向文世 画伯 師匠
黒田 - 萩原聖人 益次の一番弟子
円地 - 渡辺大知 黒田の弟子
松田知州 - 奥田瑛二
斎藤博士 - 佐野史郎 美術評論家
斎藤夫人 - 余貴美子
斎藤太郎 - 石黒英雄
斎藤満男 - 小日向星一
小野の母 - 斎藤とも子
小野の父 - 長谷川初範
青年小野 - 中村蒼
青年松田 - 大東駿介
ほか
萩原聖人さん、秋山菜津子さんら好きな役者さんが出ていて 興味をもったので予録して観た
戦後のセリフが昔の邦画のようで良い
主人公による語りは小説調で、戦前の回想は、さらに昔の日本文学の旧仮名遣いのような趣きがあった
豪華キャスティングによって、90分の中にギュっと詰め込まれた重厚な物語
謎めいていて、漱石の『夢十夜』を思い出した
【内容抜粋メモ】
小野益次:
私は今でも週に3、4日散歩に出掛ける
必ずこの橋に来る ためらい橋の風情が好き そして暗示を得る
小野家に孫・村上一郎と長女・村上節子が訪ねてくる (広末涼子ちゃん、高峰秀子みたいな雰囲気/驚
隠居してからは暴君が飼い慣らされた感じだという次女・紀子
節子: 紀子と三宅二郎との縁談は1年前 急に破談になったことを夫・素一がやけに聞くんです
1年前 ジロウに偶然会ったことを思い出すマスジ ぺこぺこと頭を下げていたのが印象的
その1週間後 縁談を辞退してきた
マ:家柄など自分は何も気にしていなかったのに
弟子の一人・信太郎と飲むマスジ
マダム(秋山さん):昔みたいに画家仲間を連れてきてくださいな
信太郎は10年前、マスジが弟ヨシオの就職に口添えしてくれたことにいまだに大きな恩を感じている
マ:私は自分の社会的地位を自覚したことなど一度もない
孫は、父が祖父は昔有名な画家だったが、止めざるを得なくなったと話したと言う
一郎:日本が戦争に負けたからだって 絵はどこにあるの? 観たい!
一郎は映画が観たいというが、ノリコは用事があってムリだと言う
泣いて引きこもる一郎
マ:あさって行こう
一郎:おじいちゃんの絵見せて!
回想
絵ばかり描いているマスジに呆れる商人の父
絵描きになりたいことを知ると退廃的だと批判する
父:うちの息子は違う ああいうのから守るのが親の義務だろう
絵を焼いている父
マ:家の中が焦げ臭い お父さんが火をつけたのは僕の野心だ
ノリコの縁談のことで相手を調査したほうがいいというセツコ マスジの過去についての誤解について
ジロウとのやりとりを思い出す
ジロウ:
取引先の社長が責任を感じて自殺した
本来、責任を問われるべきなのに 直視出来ない卑劣な人間がいるんじゃないでしょうか?
マスジ: 祖国のために働いた人を全員、戦争犯罪人というわけにもいかんでしょう
ジ:国民を引きずり込んだ人間がいたのはたしかです 卑劣極まる態度です
息子・ケンジの葬式の場で、スイチが同じことを言ったのを思い出す
ス:命が無駄に失われたことを考えると腹が立ってくる
マ:ケンジはほかの兵隊と同じように名誉な戦死を遂げたんだ
ス: 「名誉な戦死」を遂げさせた人たちはのうのうと生きている 責任を逃れている 卑劣極まる態度です!
(マスジは戦争画家だったのか?
マスジはタケダ工房で輸出用の日本画を描く仕事に就く
同僚・カメさんは手が遅く、仲間から文句を言われる カメさんを弁護するマスジ(流れ作業なんだ
マ:
幸運にも僕の絵は、あの高名な森山誠治画伯の眼に留まった
このままここにいると才能に傷がつくから弟子にならないかと誘ってくれた 君も弟子になれるかも
カメ:そんな恩知らずなことは出来ません
マ:近頃は安易に忠誠心で目上に盲従するが、僕だけはそんな生き方をしたくない
画家として成功してからは、当時の話を繰り返し弟子に語った
マ:君たちも時世に押し流されるな
一番弟子・黒田:もちろんです
黒田をえこひいきしていたマスジ
戦後、一度だけ会った 酷い雨の朝、偶然に
軽蔑するような眼 足をひきずり そのまま行ってしまう
一郎と映画に行くが怖がって観ない(『大恐獣の逆襲』 円谷系か?
美術評論家・斎藤博士に出くわす
ノリコの縁談相手はサイトウの長男で、ぎこちない会話になる
サ: 黒田さんと知り合いだそうですね 美術教師をしている これから何度もお目にかかるはずです
橋の上で占いをしようと一郎に言う「はしうら」と呼ぶ
一郎:セツコおばちゃんはおじいちゃんの絵を見せてくれない 「ずるい」という声が聞こえてくる
サイトウと会って世間話をしたと話す 黒田の話も出すと空気が固まる
セツコ:
近いうちに黒田さんや、昔のお宅を訪ねたほうがいいのでは?
サイトウ先生と会う前に いろんな誤解が生じるのはイヤだもの
マ:なんか焦げ臭くないか?
銀河鉄道みたいな列車で松田知州を訪ねる(すごい顔合わせ
初めて会ったのはセイジの別荘に住んでいた頃 カメさんと一緒にそこで暮らして絵を描いていた
岡田美術協会から松田知州が来る
松田:あなたの絵に感銘を受けた 僕は根っからの愛好家で、なんとかしてあげたい
マ: 助けを借りに来た ノリコに縁談があり、去年立ち消えになった その時、君に近づく者はいたか?
松田:君については最善のことしか話さない
マ:過去に関しては慎重に話してもらいたい
松田:ノリちゃんを案ずるなら、まずは黒田を探すのが一番だ
黒田を訪ねるのを渋っているうちに見合いの日取りが決まる
信太郎は高校に就職が決まったと報告に来るが、審議会からマの過去のことで検討の余地があると言われた
信太郎:
支那事変のことで昔、意見が食い違いましたね
占領軍当局を納得させなければ・・・ 当時、絵画塾の指示に最終的に従ったが疑問が残った
マ:審議会に君は私の影響を受けていないと言うということか
信太郎:私は誇りにしています 審議会の住所を置いて出て行く
ようやく黒田を訪ねる決意をする 粗末な家 下宿している弟子・円地が顔を出す
部屋には美人画があり円地が描いたという 黒田の影響を受けているのがよく分かる
円地はマスジを保存協会の人と勘違いしていて、小野と名乗るとさり気なく追い出そうとする
円地:
先生がどんな苦しみを味わったかご存知ですか?
あなたの図太さには呆れました 足のことを知らないでしょ?
ものすごい痛みなのに 何度も殴る蹴るを繰り返した 「この国賊め!」と呼んだんです、連中は
しかし今は誰が本当の国賊かみんな知っていますよ!
黒田と会わないまま去るマスジ
とうとう見合いの日となる
見合い相手の太郎は知的で気品があり好印象を抱く
音楽の話でノリコと気が合う 次男・満男はなにか言いたげな眼で見ている
サイトウ:またデモがあった 額に大きな傷がある男が隣りに座った
斎藤家はみんなで自分を糾弾しようとしているのではと勘ぐるマ
ミツオは黒田のもとで学んでいる
ミツオ:よくは知りませんが聞いたことはあります
夫人:一番尊敬していると思いますよ
マ:
黒田は反対意見で、今の私はその妥当性を認めるのにやぶさかではありません
我が国に生じた恐ろしい事態に私も加担していたことを否定しません
当時の私は日本のためにしていると心から信じていた
しかし現在は間違っていたことを認めます
タロウは気にせず、ノリコを気に入っている様子
マダムのもとで飲むマ 縁談は無事にまとまった
1年後 セツコに感謝するマ なんのことか分からないというセツコ
セツコ: 斎藤家はあの日のマの態度に驚いていた 経歴をよく知らなかった 画家であることすら
なぜセツコは自分がここまで心を配ったことを讃えようとしないのかといぶかるマ
マ:絵はどこにしまったんだっけ? とぼけるセツコ(焼いた?
師匠・森山誠治は、洋画を取り入れ「現代の歌麿」と呼ばれていた
背景にあるのは「浮世」 夜の歓楽、酒を堪能した
浮かない顔のマスジは橋で森山に声をかけられる
マ:近頃、疑問を感じる 私たち芸術家はああいう方々とこれほど付き合うべきか
セイジ:
画家がもっとも繊細になるのは、こんな晩だ
私は儚いものへの疑問をすっかり捨て、そのユニークさに捧げた人生を無駄にしたとは思わない
マは師匠を敬愛し、口癖まで真似た
一郎:ナグチユキオさんておじいちゃんみたいな人? なんで自殺したの?
マ:
彼の書いた歌は日本中で歌われていたが、戦後は一種の間違いだと思うようになった
過ちを認めた勇気ある人だ
私は本当に責任を感じているのだろうか・・・?
臭い長屋に来てむせるマ
松田:
政治家や実業家はこんな所に来ない
せいぜい安全な距離を置いて遠くから眺めるだけだ 画家だって同じだろ?
子どもたちが小動物を半殺しにしている
松田:あんなことしか楽しみがないってこと
マ:僕たちで大規模な展覧会を開けば、貧しい人をかなり救える
松田:どうしようもない世間知らずだ カール・マルクスについて話してほしいね
マ:芸術家の関心はどこでも見つけた美をとらえることだ
松田:
我々の手で日本を欧米に劣らぬ大帝国にすべき時が来ている
だがその意志が見えてこない こんな時に退廃的な絵ばかり描いていていいのか?
マはキャンバスに描き殴る
それを見るカメ:その絵はお遊びかい?
マ:これからはずっとこう描くつもりだ
カメ:あんたは裏切り者だ!
「独善 それでも若者は自己の尊厳を守る為に戦う覚悟を決めている」
(戦争画家も戦犯とされたのだろうか?
師匠に作品がなくなったと話すと手元にあるという
森山:
お前は弟子の中でも器量バツグンだ 手塩にかけて育てた
最近の絵を観て驚いた 随分フシギな道を探っているようだな
マ:
僕は誇りにしています 残りの絵は見つかりそうにありません
苦難の時代にあり、享楽的なものより、実体のあるものに頭を切り替えるのが信念です
両親は僕がいつまでも浮世の画家でいることを許さないのです
黒田にも同じことを言ったように回想する 立場が逆
寒い冬の朝 黒田の家を訪ねた回想
マ:
内務省文化審議会の一員で、非国民活動統制委員会の顧問にも任命されている
私が提供した情報のせいでなにか誤解があったようで・・・
黒田は取調べのために連行された 絵は焼かれている
マ: 私はただ黒田くんのためになるだろうと助言しただけなのに 優秀な作品もたくさんあったんだ
「黒田氏には不当な扱いのないよう配慮します」と笑う憲兵?
家は荒らされ放題 この時に相当暴行されたのか 萬平さんみたいに
マ: そうしなければ成し得なかったこともある 何か失ってでも、追い求めてきたものには価値が・・・
絵を焼く少し若い頃のマ それを見るセツコ?と今の自分? 焼いているのは「独善」の絵
焦げるニオイがすると今でも不安になるマ
ノリコは春には子どもが産まれる セツコにも2人目が産まれる 松田も喜ぶ
松田:
みんなオレたちを見て、杖にすがった老人としか思わんさ
不当に非難する必要はない 信念に従い全力を尽くしたんだ
1ヶ月後、松田は亡くなる ケンカはしたが、人生への態度は似ていた
今はただあの若者たちの前途に祝福あれと祈るばかりだ 橋の上で泣くマ
孫が呼ぶ 笑顔で迎える セツコが赤ちゃんを見せる
***
まるで実話のよう
冒頭では「私はけして金持ちではない」などと謙遜しつつも
弟子に囲まれ、尊敬され、いい暮らしをして、鼻につくところが見え隠れするマスジ
2人の娘、とくにセツコの態度から、だんだんと自分の過去を掘り返し
「戦争責任」について考えるに至るまで、ミステリー調に描かれていくのが素晴らしい
最後までマスジの罪はよく分からない 彼の描いた絵か、黒田への仕打か これで分かる若者はいるだろうか?
たしかに「戦争体験者」がいるということは、「戦犯」と呼ばれた人たちもまだ生きているかもしれない
ほんとうの悪というなら「戦争」そのもの
けれども、ディランの言う「戦争の親玉」が一番上にいる
次に焦げ臭いニオイがしたら 私たちは全力で反対しなければならない