*210417訂正*
殿下が黙って考えていると、相手は承諾したものと考えて「金種はどうしましょう」と聞いてきた。「一分札二枚にしますか、とれとも全部一朱札にしますか」
どうにもしょうがない、と彼はあきらめた。ほかに「イマ、ココ」で使える金を入手できるあてもない身の上である。
「一朱札にしてください」
「全部ですか。小銭はいりませんか」
「そうですね、コインもいくらか。一朱にすると八枚になるわけですね」と考えながら確認した。「そうすると一朱分はコインにするか」
「250個になります。かさばりますがいいですか。プリペイドカードも作れますが」と男は確認してきた。。
「それではカードのほうがいいな。カードはどんなことに使えるのですか」
「たいていの商品の購入に使えます」
それじゃと彼は考えると「二朱分のカードはありますか」
「出来ます。二朱カードならかなり使い出がありますよ」
「それでは一朱札六枚と二朱分のカードにしましょうか」
「賢明な選択ですな」と男は心得顔に請け負った。
店を出ると五階のホテルに引き返した。フロントに行くとさっきのもやしのような男がまだいたので彼に一朱札を一枚を彼の前に置いた。彼はびっくりしたように殿下を見たが、慌てて端末をいじりだした。どうやら彼が戻ってくるとは思っていなかったらしい。予約を取り消してしまったようだ。改めて空室を確認しているらしい。アリャアリャは出された用紙に氏名を記入した。住所は日本のにすると問題が起こりそうなので、何しろ千年も前の住所は町名変更でなくなっているかもしれないので、父親のドバイの住所を記入した。
フロント係は入室用の磁気カードを渡して、「9901号室です。荷物は?」と聞いたのである。「荷物はありません」というと驚いたような顔をしたがベルボーイに合図した。ボーイに先導されてエレベーターに乗り99階まであっという間に上った。不思議なことに耳がキューンともしなかった。部屋にはいると
ついてきたボーイにチップをやったものかどうか迷った。二十二世紀の日本ではまだノーチップの美風が残っていたが三十世紀ではどうなのだろうか。しかし、いずれにしてもポケットには小銭がない。まさかプリペイドカードでチップは払いようがない。ボーイが部屋の設備の説明が終わってもぐずぐずしているところを見るとチップを待っているらしい。彼はなにも与えずに「ありがとう」といってボーイを追い出した。
彼は部屋の中にある冷蔵庫を開けてみた。何しろ昨日からなにも食べていない。ビールらしき缶とおつまみの袋を二つ取り出すと、あっという間に二袋を胃の中に収め、アルコール飲料を飲み干した。一呼吸置いて胃の中が落ち着くと、かれは必要なものを買いに外に出た。