穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

一万倍以上に強化されたコロナ・ウィールスのバージョンアップ版

2021-04-08 07:00:26 | 書評

 「赤死病」はジャック・ロンドンが1910年に書いた中編小説である。舞台は2013年に発生した赤死病という細菌病の話である。百年後の未来小説だが、この細菌がものすごい感染力と致死率を持っていた。あっという間に世界の人口が数十億人から数百人になってしまった。数百人に減ってしまった世界人口は原始時代の狩猟生活に戻った。どうも小説の記述から見ると農業もまだ知られていない時代だ。

 そこで、赤死病以前のアメリカを知っている生き残りの元大学教授の爺さんが十代のガキたちにそのころの話をして聞かせるという趣向なのである。作者は細菌病として語っているが、そのころはウィールスなんて知られていなかっただろうから、細菌ではなくてウィールスとしたほうが現代ではとおりがいいかもしれない。

  現代のコロナウィールスがTNT火薬とすると、赤死病の威力は水爆級なのである。コロナも発生源にはいろいろな説がある。人工説が有力だと思うが、生物学、分子生物学が進歩してコロナウィ-ルスにもう少し手を加えると赤死病なみの物が出来そうだ。

 テーマと言うかアイデアは面白いのだが、叙述はきわめてdullである。もっともこれは翻訳のせいが多分にあるかもしれない。私がこれまでに読んだロンドンの小説は「荒野の叫び声」と「白い牙」である。これはアラスカ極北の地での犬と狼と人間の物語で非常に生き生きとした文章で面白かった。これに比べると「赤死病」はアイデア負けの作品である。