「そうだ、大きなバッグかいるな、ここにありますか」と女店員に聞くと、
ここにはないが、数軒先にかばん屋があると教えてくれた。かれは支払いをすますと店を出てかばん屋に行き、出来るだけ大きなショルダーバッグをあがなったのである。
再び彼は案内板でバスを呼んだ。「〇×ホテルへ2人」と入力した。帰りは今買った衣類などが大荷物になっていたので、2人乗りでも相客がいたら荷物の置き場が無くなるのを恐れて2人と指示したのであった。待つほどもなく遊園地のメリーゴラウンドにあるような可愛らしい無人バスが迎えに来た。彼は乗り込むと隣の座席に大きな荷物を置いた。
ホテルに入ると彼は九十九階の自室に戻り、下着から背広まですべて脱ぎ捨てて、
シャワーをあびて千年の旅の垢を洗い流すと、今買ってきた新調のものに着替えた。脱ぎ捨てた衣類はランドリー袋に入れたが、ワイシャツだけはうっかり投げ込みそうになって気が付いた。ワイシャツのボタンは全部小粒のダイヤなのであった。小粒だが現金化できるものは不時の出費に備えて別にしておいたほうが安全だと気が付いたのである。彼は脱ぎ捨てたワイシャツをまるめて、さっき買ったショルダーバッグにしまった。ほかにカフスボタンもダイヤモンドだったしネクタイピンにもダイヤモンドが付いている。それらをまとめて上着の内ポケットに入れた。
身支度を整えると彼は部屋を出て館内の書店を検索した。さっきの店員の話では屋外の放射能汚染がひどいらしいのでキンタマ袋を買うまでは危険を避けて買い物は構内の店で済ますことにしたのである。
大きな書店だった。延べ面積は池袋のジュンク堂の九階までの床面積を合計した広さの二十倍以上あった。東京ドームくらいの広さはあるだろう。大書店大好き人間のアリャアリャはうれしくなってしまった。じっくり時間をかけて店舗のレイアウトを飲み込むと彼は時事問題や歴史のコーナーをつぶさに点検した。ピックアップした書籍は三十冊くらいになった。レジへ持って行って清算すると早くもプリペイドカードの残高は無くなってしまった。店ではカードの発行もするというので新たにカードを作ってもらった。
店員が「お届けもできますが」と気を利かせて聞いた。
「同じ建物の中にあるマルバツ・ホテルなんだけどね」というと
「それなら無料でお届けできます」という。
「すぐに読むんだけど、どのくらい時間がかかりますか」
「はい、すぐにお届けにあがります」というので配達を頼んだ。彼はカウンターの上に積み上げた書籍の山から最初に目を通したいと思っていた数冊をより分けると残りの配達を頼んだのである。