永井荷風のたしか「伝通院」という随筆だったと思うが、少年時代の思い出で伝通院前の路上で浪速ぶしを語って通行人の投げ銭をもらっていた老人の思い出がある。
最初は調子が出ない、声がでないが、だんだん体が温まってくると、喉に溜まった大きな痰を吐き出して調子を上げてくるという思い出である。
スタンダールの赤と黒も段々そんな具合に調子が上がってきた。新潮文庫上320ページあたり、ブザンソンの神学校で校長に面会して失神するあたりから調子が出てきた。思わず伝通院の浪速ぶし語りを思い出した。
作家によっては途中から調子を上げてくる連中があるから注意して、辛抱強く読まないといけない。