穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

永井荷風の女主人公

2023-10-28 11:15:50 | 書評

いずれも墨東奇談(岩波文庫)数字はページ数

*94 わたくしはこの東京のみならず、西洋にあっても、売笑の巷のほか、ほとんどその他の社会をしらない。

*96 正当な妻女の偽善的虚栄心、公明なる社会の詐欺的活動に対する義憤は、彼をして最初から不正暗黒として知られた他の一方に馳せおもむかしめた唯一の力であった。

*96 投げ捨てられた襤褸の片にも美しい縫い取りの残りを発見して喜ぶのだ。正義の宮殿にも往々にして鳥やネズミの糞が落ちているのと同じく、悪徳の谷底には美しい人情の花とかぐわしい涙の果実がかえって沢山摘み集められる。 


つゆのあとさきのモデル問題

2023-10-28 10:26:41 | 書評

だいぶ前のアップで川端康成の雪国に出てくる無為徒食で自身は西洋の舞踏の研究家だというのは永井荷風ではないか、と記した。おそらく菊池寛に使嗾されたものではないかというのである。それで川端康成は書き始めたが、さすがに師匠菊池寛がいうように品のないことは書けないと、現在の作品になったらしい。昭和十年ころの話だ。それで川端は目出度くノーベル賞。

つゆのあとさきの犯人役は通俗小説作家の世界のボスである。なじみの女給にストーカー行為を繰り返す。猫の死骸を彼女の押し入れに放り込んだり、髪を切ったり、着物を切ったりする。簪をとったりする。それで女給の君子は占い師に相談に行く。どうも読んでいくとこの人物は菊池寛らしい。作品は昭和11年。

犯人はだんだんやり方がエスカレートしていく。彼の弟子が必死に師匠を止める場面がある。そうして匿名の手紙で君子に警告する。

この辺の骨組みや進行具合はハードボイルらしい。

次回は君子の造形について。あるいは永井荷風の女主人公の造形について