論というのは大げさだが、Penguin Crime Fictionのロンググッドバイにディーヴァーの紹介文がある。わずか数ページの短いものだ。
このブログでも触れてきたチャンドラーの特徴をディーヴァーも指摘している。無聊に苦しんで、ロンググッドバイ本文を再読、三読だったかな、四読だったかな)しようと手に取りディーヴァーの文章があるのに気がついて初めて読んだ。
いくつか要点だけ紹介する。
*チャンドラーの作品は再読可能(rereadable)である。ここは重要だ。ミステリー、犯罪小説、ノワール小説で再読に耐えるものはまずない。小欄もノワールなんて言葉を使いだした。便利だね、たしかに。
村上春樹もロンググッドバイは何度も読んだと言っていたようだ。わたしも折に触れて(大体退屈した時だが、退屈でも再読したくなるものはあまりないが)読む。新しい訳が出ると、どんな具合かなとそれも読む。
*プロットやどんでん返しにこらない。種明しが終われば御用済みとなる大部分のミステリーとは違う。情景描写や雰囲気の描写に素晴らしいものがある。テンポは遅い。小生の考えではこれらはすべて関連している。プロットにこって複雑にすると文章として腕をふるう機会は著しく制約される。
もともと文章の下手な作家はプロットにこっても失うものはすくないが、チャンドラーの場合は品質とのトレードオフに耐えない。
*ミステリーのジャンルを超えている。これも上記の諸点と関連している。
*チャンドラーの長編でどれがベストということがいえない。これも小欄で再三述べてきた下記の事実によるものであろう。
チャンドラーは51歳で最初の長編を出したそうだ。短編を書き始めたのも40代から。すなわち文章力が出来あがった大人として最初から書いている。作品ごとの出来のばらつきはすくない。平均値は高く、偏差値の幅は小さい。当たり外れが少ない。
*あたらしいTip。おそらくチャンドラーの評伝にもなかったと思う指摘がひとつある。
マーロウの名前はチャンドラーが学んだイギリスのDulwich CollegeにあるMarlowe学寮に因んだものではないか、とディーヴァーは推理している。