ミステリー本の帯とか惹句にはぎょっとするものがある。「読者に警告する。この本の3**ページ以降には驚天動地の展開がある。最初に見ないようにご注意申し上げる」てな調子。
これだけで買う気がしなくなる。なめんな、てなもんだが、一般読者はこういう宣伝文句にわくわくしながら財布のひもを緩めるものらしい。おれおれ詐欺だね。
さて、ハードボイルドでも結末はしまらないものが多い。一番多くてだめなのは、それまでテンポのいい文章で進んできたのに結末で急に無味乾燥な説明文が延々と続く。そうかと思うと説明不足で唐突に終わるのも多い。
「ガラスの鍵」のラストはいい。だいたい392ページあたりから始まるのかな。ハメットのラストはあまりいいのはないのだが、ガラスの鍵はいい。
ハメットは自分の作品の中ではガラスの鍵がヒントをあちこちにちりばめていて一番うまくいった作品だといったそうだが、わかる。ハヤカワの訳者はガラスの鍵は一番とっつきにくい作品と言ったが、それは翻訳の問題だろう。原文でも、今度の光文社の新訳でもそんなことはない、と保証する。
このラストがまた、書き忘れたが、チャンドラーのロンググッドバイに酷似する。もちろん構造的にという意味だが。
どちらも会話(尋問、聴取)のやり取りの中で相手を心理的に囲い込んでいくものだが、なかなか快調だ。よく出来ている。長くもなし、短くもなし。
酒に例えれば、ガラスの鍵は一番口当たりのいい、のど越しの感じがなめらかなハメットの作品である。前にも書いたがこの後に執筆した最後の作品、Thin Manも最初の5章を読む限り口当たりの良さは同じようだ。