安倍政権の暴走・右傾化を止めるためには、
政治哲学や思想の観点から考えてみることも
ときには必要ではないかと感じています。
保守主義への対抗軸としては自由主義が有力です。
渡辺代表も「みんなの党は自由社会を守る党」と
よくおっしゃっています。
そこで最近のハイエク解説本(*)を読みました。
ハイエク本人の本を読む時間的な余裕がないので
解説本に頼っているのは弱いところですが。
安倍総理はご自身のことを保守主義者だと
認識・自己規定しておられるようです。
ハイエク流に保守主義を冷たく定義すると、
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真の保守主義は激しい変化に反対する態度である。
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となります。
あまり魅力的とは言えない定義です。
「主義」ですらなく「態度」です。
保守主義というのは、あいまいな立場です。
固有の形のないもので、変化を嫌います。
ハイエクは保守主義と自由主義は別物と考えます。
さらには、保守主義は自由主義の敵と考えます。
自由主義は変化を善とする立場であり、
保守主義は変化を善としない立場です。
反社会主義という点では、保守主義と自由主義は、
共闘するものの、本質的には別物だと考えます。
東西冷戦のイデオロギー対立の時代には、
社会主義 VS 保守主義・自由主義でした。
しかし、社会主義が広まる以前の対立軸は、
保守主義 VS 自由主義 という構図でした。
イギリスの二大政党制を見ればわかり易いです。
もともと「保守党 VS 自由党」の対立でしたが、
その後「保守党 VS 労働党」に変わりました。
社会主義がほとんど力を失った現在では、
再び自由主義が復権する余地はあります。
保守主義には特有の危険性があります。
国家主義(全体主義)に至る可能性です。
ハイエク曰く;
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一般に保守主義者は自分たちが正しい目的と
みなすもののためにもちいられるなら、
強制または恣意的権力におそらく反対しない
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この表現も何となく感覚的に理解できます。
保守主義者は、個人の自由よりも国家の安全や
国家の安全のためと称するものを重視します。
保守派の方が、国民の権利の制限に肯定的です。
自由主義者は、自由や権利により敏感です。
安倍政権の教育再生実行会議を見ていると、
道徳教育の強化や「親学」推進派といった、
教育分野の保守派が多いように感じます。
ハイエクの次の指摘が思い浮かびます。
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典型的な保守主義者は多くの場合非常に強い
道徳的信念を有しているものであるが、
保守主義者は他人にそういった価値を強いる
資格があると見なしていることがある。
社会主義者も同様であり、自由主義者と
決定的に異なる点である。
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道徳的理念にしても、宗教的理念にしても、
自由主義者にとっては強制の対象とはならない
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私は自由主義者の立場に共感を覚えるので、
道徳の押し付けに抵抗感があります。
世襲議員には、保守主義者が多いですが、
次のような指摘になるほどと思います。
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保守主義者はある特定の確立した階層秩序を
擁護する傾向があり、かれらが尊重する人々の
地位を当局に守らせようと望む。
これに対して、自由主義者はどんなに確立された
価値に対する尊敬といえども、経済的な変化の
力に対抗してそのような人物を守るために、
特権、独占あるいは国家のいかなる強制力にも
訴えることを是認しないと信じている。
(中略)エリートといえども他のすべての人と
同様の規則のもとで、自らの能力によって
その地位を維持することを証明しなければ
ならないと信じている。
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自由主義の立場は、世襲や既得権を擁護せず、
フェアな競争や機会の平等を重視します。
TPP論議に関連してハイエクを引用すると;
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保守主義者はたいてい保護主義者であり、
しばしば農業における社会主義的方法を
支持してきた。
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今の日本の農政は、社会主義的な色が濃いです。
保守の自民党が、社会主義的な手法を取るのは、
不思議でも何でもないということです。
自由主義者の次のような傾向に共感します。
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自由主義はどんな問いにも答えを知り尽くして
いるものではないことによく気付いており、
また自分の持っている解答が確実に正しいもの
であることも、あるいは解答をなんでも見つけ
ることができることにさえ確信を持っていない。
われわれが保守主義者と異なるのは、この無知
に直面して、いかに知らないかを承認する
その意識的態度にある。自由主義者は自分の
理性に欠けている超自然的な知識の源の権威を
主張しないのである。ゆえに、ある面では
根本的に懐疑主義者であることを認めなければ
ならない。
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自由主義者というのは、他者への押し付けを嫌い、
自分自身の主張の正しさに確信を持ちません。
知的に謙虚であるが故に、普及しにくいでしょう。
宗教にしても、政治思想にしても、確信犯の方が、
より説得力があって献身的に働くものです。
自由主義者は覚めているので、弱く見えます。
やはり自分は、自由主義者に近いと思います。
全体主義や国家主義と闘う自由主義者でいたい、
と思っています。
*楠茂樹、楠美佐子著「ハイエク:『保守』との訣別」中央公論新社、2013年