衆参で710人
近ごろ、SNSを中心に「国会議員の数が多すぎる」という批判の声が高まっているのをご存知だろうか。もちろん、この問題はかなり前から指摘されてきた。とはいえ、やはり現在はコロナ禍の影響が大きいようだ。
***
昨年12月、菅義偉首相(72)は二階俊博幹事長(81)ら7人とステーキ会食を行ったことが問題視された。菅首相は「当初、ご挨拶をして失礼しようと思った」と釈明したが、国民の受け止め方は厳しかった。
麻生太郎財務相(80)は1月22日、一律10万円の「特別定額給付金」の再支給について「あれは税金ではなく政府の借金でやっている。さらに借金を増やすということか」と否定的な見解を述べた。
そして同日、石原伸晃元幹事長(63)が新型コロナウイルスに感染し、入院したと報じられた。
こうしたニュースが報じられるたび国民は、「国会議員の数が多すぎる」とSNSで怒りをぶつける──どうも、こうした“ネット世論”が高まっているようだ。
ステーキ会食、麻生発言、石原入院が報じられると、Twitterでは投稿者がリンクを貼り、自身の意見を附記して拡散させた。
その中から、「国会議員の定数削減」について言及したツイートをご紹介しよう。(註:改行を省略するなど、デイリー新潮の表記法に合わせた、以下同)
怒りのツイート
《二階さんは老害と言うしかないな 菅さんは総理の器じゃないってだけ 長く居座るから若手が経験を積めない 国会議員が多過ぎ 多過ぎて意見調整がしづらい 定数を減らすべき》
《国会議員こそ定数削減もしないし定年制も言わない! 麻生さんや二階さんは政治家を引退する年齢はとっくに過ぎてます》
(註:麻生財務相の「更に借金を増やす」という指摘に反論して)《じゃあ貴方達国会議員の定数を減らして、歳費などを全て削減しなさい!》
《大幅な国会議員定数の削減と給料減額を公約してくれた党に投票します。とりあえず自民党は次ないです》
政治担当記者は、Twitterから浮かび上がる有権者の怒りに、「そもそも国会議員の定数削減は、2012年に自民党と旧民主党の間で合意したはずですからね」と理解を示す。
同年6月、民主党政権は「衆議院議員定数を80削減する法案などを早期に国会に提出し、成立を図る」方針を閣議決定。そして11月、党首討論が行われた。
実行されない合意
自民党による政権奪取が現実味を帯びる中、当時の野田佳彦首相(63)と安倍晋三自民党総裁(66)が国会で対峙、議論を繰り広げた。
「その時、野田さんは安倍さんに、衆議員の定数削減法案に賛同を求めたのです。安倍さんが同意するなら、衆院を解散するとも発言しました。安倍さんは『よろしいんですね』と応じ、解散が決まりました。12月に総選挙が行われ、自民党が第1党となり、第2次安倍政権が誕生したのです」
自民党は政権を再び奪取したが、定数削減の議論は遅々として進まなかった。野田元首相は16年2月、衆院予算委員会で質疑を行い、当時の安倍首相に定数削減が実施されていないことを問いただした。
安倍首相は「実際に実行するのは簡単ではない」と反論。「我が党も責任があるが、共同責任」と野田氏に指摘、「同じ約束をしている私たちは勝って皆さんは負けた。そのこともかみしめていただきたい」と挑発した。
結局、2017年の総選挙では、小選挙区制が6議席、比例区が4議席という削減が行われた。しかし、この「衆院定数10減」は1票の格差を是正するのが主な目的だった。
国会議員の定数を根本的に見直すものではない。旧民主党案の80人削減という数字と比べてみれば、違いは明白だ。
国会議員は“既得権益”
この時は、これで何とか乗り切った格好だった。だが、新型コロナウイルスが感染拡大すると、一気に定数問題の言及が増えた。
「有権者はコロナ禍に苦しみ、菅政権は迷走しています。当然、与野党を問わず、国会議員には厳しい視線が向けられています。実のところ、国会議員の定数を減らしても、削減できる税金はたかがしれています。有権者が問うているのは、国会議員が自ら“身を切る改革”を断交する覚悟を示せるかどうかです」(同・記者)
このまま国会議員が有権者の声を“無視”し続けると、それこそ政治不信に発展しかねないという。
「有権者は、国会議員という地位が“既得権益”になっているのではないかと見ています。それこそ与野党が一丸となって、自分たちの地位を死守しようとしている。そんなイメージが徐々に拡散しているのではないでしょうか」(同)
経済産業省のキャリア官僚だった原英史氏は2007年、当時は自民党議員だった渡辺喜美氏(68)が規制改革担当大臣に就任すると、その補佐官となって注目を集めた。
09年に退官すると、行政・規制改革の専門家として政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを歴任、著書に「国家の怠慢」(高橋洋一氏との共著)、「岩盤規制――誰が成長を阻むのか」(いずれも新潮新書)などがある。
優秀な議員が落選!?
いわば筋金入りの“改革派”である原氏に、Twitterなどの投稿について訊くと、「たしかにろくな仕事をしていない国会議員は多いですね」と語る。
「国会中継を見ていても、トンチンカンな質問ばかりです。こんな国会議員に税金から報酬を払っているのかと、ガッカリする方も多いでしょう。実際は、そんな議員でも質問するだけマシです。質問もせず、政策決定に何の関与もせず、何をしているのかさっぱり分からない議員がたくさんいます」
一方で、与野党を問わず、原氏が「これこそ選良だ」と感服する議員もいる。
「早朝から深夜まで、土日も関係なく、常人では考えられない量の仕事をこなし、優れた政策を生み出す議員もいます。私の認識では、しっかりした成果を出している議員はごく少数で、そうした議員に仕事は集中します。これは民間企業でも、よく見られる光景でしょう。一握りの“スーパー社員”が成果を出し、その他大勢の“お荷物社員”を支えるという構図です」
原氏は「お荷物議員を見て、『定数を減らせ!』と訴える有権者の気持ちは、分からないでもありません」と理解を示す。だが、安易な定数削減は、むしろ国民にとってのマイナスとなる可能性があるという。
「定数を減らしても、お荷物議員が当選してしまい、スーパー議員が落選してしまっては意味がありません。成果を出せる議員が減ってしまうと、国の政策決定機能が低下してしまうからです」
年俸にメリハリを
むしろ問題は、有権者に「国会議員1人1人の成果」が全く見えていないことだという。
「国会議員は、地元の盆踊りや、新年会には来てくれるのかもしれません。しかし、国会や党の部会でどんな仕事をしているのか把握している有権者は稀でしょう」(同・原氏)
SNSでは「議員報酬を減らせ」という指摘も多い。原氏は定数と同じように理解を示しつつも、やはり懸念を指摘する。
「優秀な議員とお荷物議員の報酬を一緒に下げるのは、やはり不公平です。問題は、仕事をしている国会議員も、仕事をしていない国会議員も、同じ額の報酬になっていることです。例えば、国会や政党に評価委員会を設置し、議員の働きを評価。その評価に応じて議員の報酬を決めたらどうかと思います。成果を出している国会議員なら、今の何倍でも報酬をアップしていいと思います」
とにかく今のままでは、国民の不満は募るばかりである。
週刊新潮WEB取材班
2021年1月29日 掲載