先月末に成立した第3次補正予算ですが、菅政権の国民軽視の本質が色濃く現れたものでしかないようです。今回のメルマガ『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、3月末までに使う予算にもかかわらず、コロナ禍に喘ぐ生活困窮者への直接支援の予算はゼロという「異常性」を批判。さらに「最後には生活保護がある」と吐き捨てた菅首相や、麻生財務相らの姿勢を強く非難しています。
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補正予算と補正下着
1月28日夜の参議院本会議で、与党の自民党と公明党、そして、野党なのに与党の補完勢力に成り下がっているため「ゆ党」と呼ばれている日本維新の会による賛成多数で、とんでもない政府案のままの第3次補正予算案が可決・成立してしまいました。まずは、この補正予算というものについて、そろそろ補正下着が必要になって来た年齢のあたしが、高機能ブラジャーで寄せたり上げたりしてナイスバディーをキープしつつ、ザックリと解説します。
簡単に言えば、1年間の予算が、その年度中に何らかの理由で足りなくなった時に組まれるのが、この補正予算です。今年度の場合は、安倍政権下の昨年4月に組まれた第1次補正予算が約26兆円、これは全国民への一律10万円の給付金を始め、雇用調整助成金の拡充や医療機関への予算など新型コロナ対策が主体だったため、それほど批判は起こりませんでした。そして、6月に組まれた第2次補正予算が約32兆円、とても大型でしたが、これも新型コロナで疲弊する企業や地方への支援策が主体だったため、細かい点では批判がありましたが、そこそこすんなりと成立しました。
しかし、今回の第3次補正予算21兆8,353億円は、歳出額こそ第1次や第2次より少ないものの、その内容が酷すぎるのです。政権寄りのメディアは「新型コロナウイルス対策などを盛り込んだ今年度の第3次補正予算」などと報じて、あたかも新型コロナ対策が主体であるかのように印象操作を繰り返しました。しかし、実際に新型コロナ対策に使われるのは、このうちの4兆3,581億円だけ、全体の2割ほどなのです。それでは、残りの18兆円は何に使われるのでしょうか?
最も大きいのは、デジタル化の推進やマイナンバーカードの普及、「Go To トラベル」の延長など、「ポストコロナ」を名目とした経済構造改革の11兆6,766億円です。そして「国土強靭化」や「防災」を名目とした公共事業のバラ撒きなどが3兆1,414億円です。繰り返しますが、これは今年度の補正予算、つまり、3月末までに使う予算なのですよ。それなのに、何が「ポストコロナ」ですか?
感染拡大によって1月初旬に緊急事態宣言が発令されましたが、期限の2月7日までにはとても収束など不可能だったため、さらに3月7日まで1カ月も延長されました。こんな状況下なのに、どうして新型コロナ対策の予算の何倍もの予算がコロナ後のために計上されているのでしょうか?まずは新型コロナの収束のために全力を尽くすこと、そして、新型コロナによって困窮している人々に直接的な支援を行なうこと、この2つを並行して進めるのが最優先課題なのではないでしょうか?
普通、自宅が火事になったら、何よりも先に119番に電話しますよね?そして、火事を消火してもらいながら、中に逃げ遅れた人がいたら救出してもらいますよね?この「消火」が新型コロナ対策であり「人命救助」が生活困窮者への直接支援なのです。まずは、この2つをやり遂げてから、すべてはそれからの話であって、自宅が燃えている時に、消火や人命救助を後回しにして、駅前の不動産屋にしばらく住むためのアパートを契約しに行く人などいませんよ。しかし、今回の補正予算は、まさしくコレと同じ内容なのです。
その上、財務省主計局の一般会計の歳出項目をよくよく見てみたら、シレッと「防衛費」が3,867億円も計上されていて、その内訳を調べてみると7割以上がアメリカ製の兵器を買うための前払い金だったのです。「新型コロナ対策」だと言いながらアメリカの兵器を買うなんて、これこそ「火事場泥棒」じゃないですか。
今回の第3次補正予算が可決・成立した1月28日、EU理事会は「入域制限解除国リスト」の改訂を行ない、日本を「感染拡大国」と認定してリストから除外しました。正直、あたしには、日本よりEU各国のほうが感染が拡大しているように見えるので「お前が言うな!」という気持ちですが、何らかの政治的思惑があっての除外ではなく、緊急事態宣言やワクチンの遅れなど日本の現状を客観的に見た上での判断なのでしょうから、仕方ありません。
それよりも、あたしは、EU理事会が日本を「感染拡大国」と認定した日に可決・成立した補正予算案が、新型コロナ対策など二の次の内容だということに開いた口がふさがらないのです。この呆れ果てた政府の補正予算案に対して、立憲民主党や日本共産党を始めとした野党は、予算の組み換えを要求しました。長くなるので詳細までは記せませんが、以下、大きな要求点を挙げます。
医療機関・医療従事者への支援 3兆円
感染防止対策の徹底 1兆5,000億円
生活困窮者への支援 3兆4,000億円
事業・雇用への支援 7兆5,000億円
地方自治体への支援 2兆5,000億円
この野党案が通れば、補正予算の総額が少なくなる上に、予算の大半が新型コロナ対策に使われることになりますから、感染拡大の歯止めも早まり、生活困窮者の救済も進みます。しかし、この野党案は自公と維新による数の暴力で瞬殺され、新型コロナ対策など二の次の政府案がそのまま可決・成立してしまったのです。
これだけでもとんでもない話なのに、さらには「財源」までもがとんでもないのです。先ほど、安倍政権下で組まれた第1次と第2次の補正予算について触れましたが、国会の承認を経ずに政府が使い道を自由に決められる新型コロナ対策の予備費として、第1次では1兆5,000億円、第2次では10兆円、合計11兆5,000億円が計上されました。そして、これまでに24件、計5兆8,000億円の支出が決定されているので、残りは5兆7,000億円あります。
これに目を付けた麻生太郎は「国会の承認を経ずに政府が使い道を自由に決められる」という点を悪用して、ここから1兆8,500億円を第3次補正予算の財源として盗み取ったのです。財務省としては、できるだけ赤字国債の発行額を少なくしたかったのでしょうが、新型コロナ対策の予備費を財源にするなんて、これまた「火事場泥棒」です。いくら「使い道を自由に決められる」と言っても、これは「新型コロナ対策の予備費」なのですから、新型コロナ対策以外には使えない予算なのです。
第3次補正予算のうち、新型コロナ対策に使われるのは約4兆3,500億円ですが、財源のうち1兆8,500億円が第1次と第2次で積み立てられた予備費から支出されるということは、今回の予算の実質的な新型コロナ対策は「4兆3,500億円−1兆8,500億円=2兆5,000億円」ということになり、さらに少なくなってしまいます。野党は、この「1兆8500億円の流用」についても撤回を求めましたが、やはり自公と維新によって瞬殺されてしまいました。
ちなみに、残りの19兆円を超える財源は、すべて赤字国債の発行で賄われます。これで、今年度の国債の新規発行額はとうとう100兆円を超え、計112兆5,539億円となってしまいました。これまでの毎年の予算は、全体の約半分が国債の新規発行、ようするに「未来への借金」で賄われて来ましたが、今年度は予算全体の64%が「未来への借金」になってしまったのです。
政治家の最も重要な仕事は「所得の再分配」です。高所得者や大企業からは多く税金を取り、低所得者や中小企業からは少なく税金を取り、それをどこにどのように振り分ければ、憲法第25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を全国民に保障できるか。これを行なうのが政治家の仕事です。適切な予算の振り分けを行なうことによって、全国民が所得や環境に関係なく、教育、保健、医療、保育、福祉、住宅、交通など、生活に必要なすべての面を保障されなければならないのです。
しかし現在は、終わりの見えない新型コロナの蔓延によって、解雇や雇い止めが増加し続け、非正規雇用の女性たちの自殺が急増し、「来月や再来月」ではなく「今日や明日」の生活にも困っている国民が増え続けているのです。こうした危機的状況下で補正予算を組むのですから、本来であれば、先ほど紹介した野党案のように、少なくとも全体の8割以上が新型コロナ対策でなければなりません。
しかし、数の暴力で可決・成立してしまった政府案では、危機的状況の原因である新型コロナ対策の予算は全体のわずか2割だけ、そして、生活困窮者への直接支援の予算はゼロなのです。目の前で人が溺れていて、堤防の上には「予算」という浮き輪の付いたロープが置いてあるのに、菅義偉はそのロープを投げずに、「最後には生活保護がある」という捨て台詞を吐き、溺れている人を見捨てて立ち去ってしまったのです。
「補正」という言葉を辞書で引くと「足りないところを補って誤りを正すこと」と書かれています。今、何よりも足りないものは「生活困窮者への直接支援」であり、誤りを正さなくてはならないことは「PCR検査の拡充」や「医療従事者への支援」や「病床と医者の確保」などの「新型コロナ対策」です。決して「デジタル化の推進」や「マイナンバーカードの普及」ではありませんし、ましてや「アメリカ製の兵器の大量購入」などではありません。
「補正下着」とは、脇のお肉を前に持って来てバストを寄せて上げるブラジャーや、ウエストを整えてヒップを持ち上げるガードル、バストからヒップまで理想的なバランスにするボディースーツなど、必要のないお肉を必要な部分に配分し直す専用下着の総称です。しかし、今回の政府案の「補正予算」は、「補正」とは名ばかりで、必要な部分の予算を?ぎ取り、どうでも良い部分にばかり予算を盛り付けた極めてアンバランスなものなのです。
女性の身体で言えば、バストやヒップが垂れ下がり、脇腹や下腹部にばかり贅肉の付いた非常に醜いスタイルです。これでは、とても「補正予算」とは呼べません。もしも、これと同じ「補正下着」をどこかの下着メーカーが販売したとしたら、あっと言う間にクレームの嵐が巻き起こるばかりか、消費者団体から「詐欺」で訴えられるでしょう。(『きっこのメルマガ』2021年2月3日号より一部抜粋・文中敬称略)
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