経団連の事業方針「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直し」。閣議決定の骨太方針「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討」。
経団連・事業方針「裁量労働制の対象拡大」
経団連(一般社団法人 日本経済団体連合)は(2022年)6月1日に「サステイナブルな資本主義を実践する-2022年度事業方針-」を公表したが、そこに「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直しを目指す」と記載されている。
経団連は(今年度事業方針だけではなく、これまでも事業方針に記載されていたことだが)「裁量労働制の対象拡大の早期実現」と裁量労働制対象(適用)拡大を政府に求める方針を明確にしている。
また、経団連が(2022年)5月9日に公表した「当面の課題に関する考え方」には「働き手の健康確保を前提とした裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す」と書かれている。
つまり、6月公表の事業方針には「裁量労働制の対象拡大」としかないが、5月公表の当面の課題に関する考え方には「働き手の健康確保を前提とした」が付け加えられている。むしろ、5月公表の考え方には「働き手の健康確保を前提とした」とあったが、6月公表の方針には削除されている。
規制改革推進会議・規制改革推進に関する答申
内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第13回会議が(2022年)5月27日)にオンライン開催されたが、議題は「規制改革推進に関する答申(案)について」。そして、規制改革推進会議開催後、「規制改革推進に関する答申」が内閣府サイトで公表された。
内閣府サイトで公表された「規制改革推進に関する答申」には「3.人への投資」「(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し」の中に「ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」という項目がある。
その項目の中に「裁量労働制については、(厚生労働省「これからの労働時間制度に関する検討会」において)健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める」と記載されている。
つまり、裁量労働制に関しては経団連方針のように「対象(適用)拡大」といった言葉はないが(もちろん否定もされていない)、「健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行う」と政府(厚生労働省)の実施事項として書かれている。
規制改革推進に関する答申と経団連方針との比較
「規制改革推進に関する答申」と経団連「当面の課題に関する考え方」とに記載された裁量労働制に関する記述を比較すると、「規制改革推進に関する答申」には「対象拡大」とは書かれていないが、経団連「当面の課題に関する考え方」(および2022年度事業方針)には「対象拡大」と書かれている。
また、「規制改革推進に関する答申」には「健康・福祉確保措置」とあるが、経団連「当面の課題に関する考え方」には「健康確保」とあり、経団連2022年事業方針には「健康確保」といったことにはふれていない。
さらに「規制改革推進に関する答申」には「労使コミュニケーションの在り方」とあるが、経団連「当面の課題に関する考え方」に経団連「2022年事業方針」にも「労使コミュニケーションの在り方」などといった表現は見受けられない。
裁量労働制に関する労使コミュニケーション問題
厚生労働省が公開している「これからの労働時間制度に関する検討会」の資料や議事録(ヒアリングに関しては会社や労働組合の名称を公表しないで非公開で行われたため「議事概要」)を読むと、裁量労働制に関して「健康・福祉確保措置」とともに「労使コミュニケーションの在り方」が問題にされている。
「これからの労働時間制度に関する検討会」の議論が始まる前から、裁量労働制の長時間勤務や不規則勤務による健康被害が指摘されていたため、厚生労働省も裁量労働制見直しにおいては健康確保措置について何らかの配慮する規定が必要と考えていたようだ。
しかし、労使コミュニケーションについては厚生労働省も「これからの労働時間制度に関する検討会」の議論が始まる前は特に問題とは思っていなかったようだが、「これからの労働時間制度に関する検討会」が実施したヒアリングや議論の中で提起された問題。
裁量労働制では「労使委員会」が重要な働きをするが、検討会では労使委員会のことも知らない社員・職員(裁量労働制適用者)がいることが明らかにされたが、裁量労働制で最も重要な「労使委員会」が機能していない。
そして、対象者からの「同意」も適切に得られているかどうか、などといった問題が、裁量労働制に関する労使コミュニケーション問題になるであろう。
「経済財政運営と改革の基本方針2022」閣議決定
「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)が経済財政諮問会議での答申を経て、昨日(2022年年6月7日)閣議決定された。
この「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)には裁量労働制に関する記載は詳しくされてないが、「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討を進める」とだけ書かれている。
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