二大政党制は、世界の少数派であると同時に、
二大政党制が良い結果をもたらすとは限らず、
無条件に二大政党制を是とはできません。
そのことを2009年にブログで書きました。
多くの人に知っていただきたい論点なので、
再掲させていただきたいと思います。
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『二大政党制は正義か?』
小沢幹事長と仲の良い21世紀臨調をはじめとして、日本には「二大政党制=善」という信仰が根深いと感じます。
私自身も何となく自民と民主の二大政党制に収斂していくのかな、という漠然とした思いを以前は抱いていました。
しかし、自民党を離党して、新しく小さな政党の結成に関わってみてふつふつと「二大政党が正しいのか?」という疑問が湧いてきました。
目標としては、民主党とみんなの党の二大政党的な状況を目指し、
【大きな政府・労働組合寄り、社会民主主義路連の民主党】
【やや小さな政府・経済成長重視、自由主義路線のみんなの党】
という図式でみんなの党の拡大を目指してきました。
しかし、社民党や共産党、国民新党といった既存の小政党やあるいはまだ見ぬ将来の「緑の党」や地域政党も含めて、少数派の意見を尊重するためには、緩やかな多党制を前提として連立政権も当たり前という状況の方が、今の日本にあっているのかもという気がだんだんしてきました。
ますます価値観が多様化し、また階級社会でもない日本では、無理やり二大政党制を創り出すのは、そもそも難しいかもしれません。
また、日本でよく言われる「二大政党制の方がすぐれている」という命題は、政治学の世界では、まったく成り立っていません。
純粋な二大政党制の国は、アメリカとニュージーランドだけです。ドイツや北欧をはじめヨーロッパの多くの国は、穏やかな多党制です。
アメリカの民主主義の方が、ヨーロッパの民主主義よりすぐれている、と思っている人がどれだけいるでしょうか?
イギリスには、よく知られている労働党と保守党以外にも、自由民主党という政党がそれなりの支持を集めています。その他に北アイルランドやスコットランドの地域政党もあります。
イギリスの場合、二大政党制から多党制へのシフトが進んでいます。例えば、直近の2005年庶民院選挙の政党別得票率を見れば明らかです。
労働党: 35.2%
保守党: 32.4%
(合計) 67.6%
二大政党の合計でわずか約3分の2に過ぎません。
今年のイギリスの地方選挙や欧州議会選挙の結果を見るとさらに明確です。
【地方議会選挙】*カウンティ・カウンシル選挙
保守党: 1,531議席
自由民主党: 484議席
労働党: 178議席
独立系: 97議席
緑の党: 18議席
【欧州議会選挙】
保守党: 26議席(得票率:27.7%)
英国独立党: 13議席(得票率:16.5%)
労働党: 13議席(得票率:15.7%)
自由民主党: 11議席(得票率:13.7%)
緑の党: 2議席(得票率: 8.6%)
英国国民党: 2議席(得票率: 6.2%)
スコットランド国民党:
2議席(得票率: 2.1%)
*英国独立党はEU脱退を主張する党。英国国民党は極右政党。
今年の二つの選挙の結果を見ると、イギリスはもはや二大政党ではありません。民主党の小沢幹事長が謙虚に学ぼうとしているイギリスの政党政治は、かつての二大政党制から穏やかな多党制へとシフトしつつあると言えそうです。
これまで「政権交代可能な二大政党制が望ましい」という前提で、小選挙区制の導入が進められてきた経緯があります。
政治の世界では、小選挙区制、または、比例代表制のいずれかが標準です。かつての衆議院の中選挙区制というのは日本独特の制度でしたが、あまりメリットがないので、世界では広まりませんでした。
小選挙区制も、比例代表制も、一長一短がありますが、望ましい選挙制度の候補としては、この二つが挙げられます。
日本で小選挙区制が望ましいと主張されてきた背景には、
①比例代表制だと、小政党が乱立する
②小政党が乱立すると、連立政権になる
③連立政権になると、安定政権にならない
従って、比例代表制より小選挙区制が望ましい、という理屈がありました。
しかし、欧州17カ国の比較研究によれば、単独政権でも、連立政権でも、政権の寿命には、関係ないということがわかっています。自公の連立政権も小泉総理のときは、かなり長続きしました。
従って「連立政権になると、安定政権にならない」という前提は、実のところ、誤りだったということがわかります。
欧州の小国によく見られる多党制、比例代表制の国々は、比較的安定した連立政権を生み出してきました。
しかも、政治学者のアーレンド・レイプハルトの研究によれば、比例代表制の国の多党制「コンセンサス型デモクラシー」の方が、二大政党制の国の「多数派デモクラシー」よりも「質」がすぐれ、女性の政治進出、投票率などの指標でまさっているとされています。
比例代表制・多党制を前提としたコンセンサス型政治は、決して小選挙区制・二大政党制を前提とした政治に劣っていません。
日本では、政治家も、マスコミも、学者も、英語教育を受けてきたせいか、英語圏の制度や学問を勉強することに熱心な傾向があって、イギリスとアメリカの民主主義がベストだと思ってしまう傾向があります。
私自身も何となくイギリスの議会制民主主義と議院内閣制に憧れてきました。日本の議会に近い制度であり、また日本より議会制民主主義の伝統が長いので何となくイギリス型民主主義を真似したくなってしまう傾向は否定できません。
しかし、イギリスとアメリカのアングロ・サクソン・モデルは、世界の中ではかなりユニークな部類に入ることを考えれば、イギリスとアメリカの制度だけを見て、日本の制度を設計するわけにはいきません。
多様性や多元性を包摂しやすい点では、多党制・比例代表制に分があります。価値観が多様化する中で、少数意見を切り捨てやすい二大政党制の欠点が際立ち、多党制・比例代表制の方がより望ましくなりつつあるとも言えるのかもしれません。
少なくとも盲目的に「政権交代可能な二大政党制が正しい」と思い込まず、いろんな可能性、いろんな国際比較、歴史的経緯などを考えた上で、政治制度を設計していくことが大切なのだと思います。
最後に「二大政党制は善」という既成概念に対する態度について述べます。
今年の選挙前にみんなの党の創設に関わったときに、複数のベテランのマスコミ関係者(政治部)に批判されました。彼らは「やっと自民と民主の二大政党制ができあがってきたのに、それを邪魔するような新党結成はダメだ」といった意見をお持ちでした。
今年の衆議院選挙では、みんなの党はほとんど報道されませんでした。ちょうどみんなの党の結党記者会見の日に酒井法子さんが逮捕されて、そのせいで報道量が極端に少なくなったという事情もあります。
しかし、マスコミの中堅・幹部クラスの政治部記者の間に存在する「せっかくの二大政党制を邪魔するな」という無意識の意識が、みんなの党をはじめ小政党の報道を少なくするひとつの要因だったと思います。
政治学者でもマスコミ関係者でも「二大政党制は善である」という意識は、年齢が上になるほど強いように感じます。
逆に、政治部記者でも政治学者でも若い世代になると、さほど二大政党制にこだわっていないように感じます。こだわりが、偏見につながります。
われわれ若い世代ほど自民・社会の55年体制の呪縛から自由であり、英米型民主主義(二大政党制)を絶対視することが少ないのかもしれません。
政治部の記者でも若い世代は、比較的「二大政党制信仰」から自由です。民主と自民の二大政党制には無理があると思っている人が多いように感じます。
参考文献に挙げさせていただいた以下の3つの著書や論文の著者のうち、
高安健将さん(成蹊大学准教授)は1971年生まれ(38歳?)、
吉田徹さん(北海道大学准教授)は1975年生まれ(34歳?)です。
*ホームページの履歴には、生年はあっても、誕生日の記載がありません。
したがって、誕生日によっては、年齢が間違っている可能性があります。
私が1973年生まれの36歳ですが、同世代の若い気鋭の政治学者たちが、従来の発想にとらわれないユニークな視点で日本の政治を分析しているのは、たいへん心強く思います。
政治家も、政治記者も、政治学者も、30~40歳代の若い世代が、新しい時代の新しい政治のスタンダードを創らなくてはいけないと思います。
参考文献
・久保文明「柔らかい政党の動かす超大国」アステイオン(71)、2009年
・高安健将「空洞化する英国の議院内閣制」アステイオン(71)、2009年
引用元http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog/