Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

夕ぐれ族

2022-08-19 | 映画(や行)


■「夕ぐれ族」(1984年・日本)

監督=曽根中生
主演=春やすこ 松本ちえこ 蟹江恵三 山本奈津子 竹中直人

1982年。愛人が欲しい男性に女性を斡旋する愛人バンク「夕ぐれ族」が世間を騒がせた。翌年、会社が売春を斡旋していたとして女社長は逮捕され、実刑判決を受けた。そんな事件をタイムリーに映画化した作品。当時にっかつは、三越事件をベースにした「女帝」など実際の事件を扱ったロマンポルノ作品が製作されていた。今じゃ考えられない即応性。

当時僕は中高生だったが、性にまつわる事件が世間を騒がせたことはなんとなく覚えている。その映画化ということよりも、滑舌のいい漫才で人気があった春やすこが主演…!!という驚き。野村誠一が撮ったグラビアでは、テレビで見るのとは違うどこかアンニュイな表情も見せる春やすこにドキッ!とした当時の僕。この映画に少なからず興味はあったのだけど(高校生です)、配信の時代になった今やっと観ることができた。

愛人バンクの女社長を演ずるのは松本ちえこ。テレビであっけらかんと「クラブ活動みたいなもんですよー」と言い放つ。その恋人で仕掛人が蟹江敬三。男優陣は他にもなぎら健壱、岸辺一徳、竹中直人と豪華なメンバー。特に竹中直人は、ベットイン前にブルース・リーの真似したり、コントを見てるように軽い。男女が初めて会った時の合言葉。
「釜山港へ帰れ」
「ラブイズオーバー」
当時のヒット曲のタイトル。笑えるww

お目当ての春やすこは、蟹江敬三を取り巻く女性の一人で、彼に相手にされない腹いせに愛人バンクに登録する女子大生。関西弁で捲し立てるセリフ回しは、漫才のイメージ通りだが、蟹江敬三にからみつくと口調がガラッと変わる。テレビでは見られないオンナが感じられる。こんなんだったのね♡

彼女の父親は、大阪から東京に出張する時に愛人バンクを利用する。事件が報道されて、娘と鉢合わせするラスト。カメラが左右にパンして、元の位置に戻るとお父さんいる…というカメラワーク。お互いがどう愛人バンクに関係しているのか尋ねずに、「大阪帰るんやろ。送ったる」と声をかける場面は、おかしいんだけどどこか情を感じられて好感。

「マルサの女」の本田俊之が担当した音楽がカッコいい。登録しにくるバージン女子が大好きだった山本奈津子。ストーリー上重要な役割。映画全体としては、事件のツボも押さえつつ、ロマンポルノとしてしっかり成立している楽しい作品でした。

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夕陽に向って走れ

2022-04-29 | 映画(や行)

◼️「夕陽に向って走れ/Tell Them Willie Boy Is Here」(1969年・アメリカ)

監督=エイブラハム・ポロンスキー
主演=ロバート・レッドフォード ロバート・ブレイク キャサリン・ロス スーザン・クラーク

キャサリン・ロス目当てで初めて観賞。生粋のハリウッド生まれのキャサリン・ロスは、ネイティブアメリカンの娘を演じている。役者の出身や血筋まで配慮を求める今のハリウッドと違って、こうしたキャスティングが可能だった時代だ。

ウィリー・ボーイと呼ばれる青年がネイティブが暮らす居留区に戻ってきた。かつて恋人ローラの父とトラブルを起こしたウィリー。再びローラに近づくが厳しい視線が注がれ、銃口が向けられる。居留区を見守る立場の監督役のエリザベスはローラの身を案じていた。保安官クーパーは、エリザベスと男女の仲であったが、それはあまりにも一方的で彼女には屈辱的な関係だった。ローラが真夜中に逢引きしているところを襲われたウィリーは誤って彼女の父親を殺してしまう。逃げる二人をクーパー保安官が追い詰める。

名作「明日に向かって撃て!」と同年に製作された映画で、ロバート・レッドフォードとキャサリン・ロス共演というだけで嬉しくなるのだが、こんなゲス野郎のレッドフォードを初めて観た。それに加えて恋人を思ってるのかプライド重視なのかわからんロバート・ブレイクにもイライラさせられる。それでも破滅に向かって突っ走るような、当時のアメリカンニューシネマ的結末は悪くない。特にクライマックス、どこから撃ってくるのかわからない緊張感は、他の映画では味わえない名場面。

ネイティブだけでなく、女性に対する差別も盛り込んだ作品。そして、窮屈な生き方しかできなくなった時代の西部劇でもある。ここには、赤狩りでハリウッドを追われたポロンスキー監督の思いが込められているのかもしれない。



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野性の呼び声

2020-03-24 | 映画(や行)



◾️「野性の呼び声/The Call Of The Wild」(2020年・アメリカ)


監督=クリス・サンダース

主演=ハリソン・フォード ダン・スティーヴンス オマール・シー カレン・ギラン


原作は幼い頃に読んだ記憶がある。今回で6回目の映画化だとか。物語が語り継がれるのはいいことだし、今の映像技術で描かれたことで主人公である名犬バック目線のストーリーも作り込まれているのが特徴。


どうせCG犬の映画でしょ?、と甘く見ていたのだが、アラスカの自然の美しさ、それを撮るヤヌス・カミンスキーのカメラがまた素晴らしく、気づくと仕事疲れで映画館にいることを忘れていた。前半はオマール・シーの明るいキャラクターが場を盛り上げてくれて、後半は渋味を増したハリソン・フォードとバックの素敵な関係に心を打たれる。やっぱりハリソン・フォードには毛むくじゃらの相棒が似合うよねww


監督は「リロ&スティッチ」のクリス・サンダース。「Mr.インクレディブル」のブラット・バート監督もそうだけど、アニメ出身監督が撮る実写は、画面の隅々まで作り込まれて絵になる場面が多い印象がある。森に惹かれていくバックが狼たちの住処にやってくる場面にしても、初めてアラスカの地を踏むバックが泥だらけの地面を歩いた後で雪に触れる場面にしても、美しさだけでなく物語の展開もからむ大事な場面。凍った川で彼らが陥る危機一髪の場面も心に残る名場面。観てよかった。ヒゲ面のハリソン・フォードと昔からの文学作品の映画化。いつかこの人で「老人と海」撮ってくれんだろうか、とちょっと思った。

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ヤマトよ永遠に

2019-10-03 | 映画(や行)


◼️「ヤマトよ永遠に」(1980年・日本)

監督=舛田利雄 松本零士
声の出演=富山敬 麻上洋子 仲村秀生 潘恵子 野沢那智

「宇宙戦艦ヤマト」劇場版第3作。テレビシリーズ「ヤマトll」「新たなる旅立ち」の続編という位置付けで製作された作品で、まだ著作者の争いが起こる遥か前の作品だけに、松本零士の名前が前面に出ているのが、今の目線だとなんか感慨深い。実は「永遠に」を観るのはこれが初めて。「完結編」もテレビシリーズもちゃんと観てるのに。

地球脱出の際に離れ離れになってしまう古代進と森雪を軸に、古代守とスターシャの娘サーシャ、暗黒星団帝国のアルフォン少尉が絡んできて、遠く離れても思い合う古代と雪それぞれに言い寄ってくる。
「私を受け入れて欲しい」
「待って、時間をください」
「おじさまの心には雪さんがいるのね」
…な、なんだ。もはや昼ドラのようなドロドロ感。

公開当時に観なかったのはイスカンダル人であるサーシャがわずかな期間で大人に成長するという設定を聞いて、中坊だった僕は「ありえん。ヤマトよ何処へ行くのだ?」と生意気にも思い、当時観るのをためらったのだ。でも高畑勲センセイも「かぐや姫の物語」で、地球上の人間ではないかぐや姫の成長の早さ(ぐんぐん大きくなるから"たけのこ"って呼ばれる場面ね)を描いてるし、もはやツッコミどころではないのかも。

大人になって観てよかったかも。あの年頃じゃこのドロドロ感の面白さは分からんだったろう。特に森雪がアルフォン少尉から、爆弾解除の秘密を引き出せるかがストーリーのカギとなる。しかしその為には、愛する古代進を裏切ることになる。
「地獄に堕ちてもいい。」
と、超重量級の台詞まで口にして泣き崩れる雪。オレは「ヤマト」を観てるんだよな、フジテレビ系の昼ドラ見てるんじゃないよな、と自分を問いただすww。

連続ワープが可能になったり、主砲がやたらパワーアップしてたり、と戦闘シーンも見どころ。暗黒星団帝国の本星にたどり着いてからの展開には唖然。しかしこの年齢で観たせいなのか、健気なサーシャの捨て身の活躍に、なーんかこの呆れた展開を許せている自分がいる。潘恵子の名演に萌え萌え。
サーシャ「おじさま」
tak (//∇//) …なぜお前が照れている?(爆)

壮大なSFメロドラマを堪能されたし。




ヤマトよ永遠に [Blu-ray]
富山敬,麻上洋子,仲村秀生
バンダイビジュアル
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夜は短し歩けよ乙女

2019-06-15 | 映画(や行)
◾️「夜は短し歩けよ乙女」(2017年・日本)
 
監督=湯浅政明
声の出演=星野源 花澤香菜 神谷浩史 秋山竜次
 
楽しい飲み会にお開きの時間が迫ると、「あーもう、この楽しい時間がずっーっと続けばいいのになぁ」と思ったことはないだろうか。この「夜は短し歩けよ乙女」は、お酒の嗜みと楽しさを知った大学生"黒髪の乙女"ちゃんと彼女に恋する先輩を軸に、一夜の酒宴から深夜の古書市、学園祭、謎の風邪蔓延と春夏秋冬のエピソードが続く。大学時代という楽しき日々と、覚めないでほしい夢心地に浸る上映時間は、愉楽のモラトリアム。
 
森見登美彦の原作は読んだ。とにかくアルコールを摂取し続けるどんちゃん騒ぎが延々と綴られる前半に、だんだんと僕のイマジネーションも酩酊状態になっていき、どんな場面を想像したらよいのか混乱しながらページを読み進めた。しかしこの映画化で示された世界は、中村祐介のイラストから自由に広がっていくイメージがとても魅力的なのだ。酒場のカウンターの背後にズラっと並ぶ真っ赤なダルマ。それはアニメセルというフィルターを外すとダルマやらタヌキと呼ばれたサントリーオールドが並んでいる様子なんだろうし、10代の頃から大好きだった(コホン)赤玉ポートワインの黄色と白のラベルが並ぶ素敵な風景もなーんか嬉しい。
 
欲しかったものと出会えるかもしれない古書市にしても、学園祭実行委員との追いかけっこにしても、美少女が風邪の見舞いに来てくれることにしても、とにかく"ずっとこの楽しい時間が続けばいいのに"と思えるエピソードたち。理屈を追っていけばなんだかわからない話。だけどこの自由な映像と、粋な台詞の数々、ラストを飾るアジカンの主題歌までをあるがままに受け止めて楽しめたら、この上映時間はあなたにとって、世知辛い現実社会に戻るまでの素敵なモラトリアムとなるに違いない。
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ユダヤ人を救った動物園〜アントニーナが愛した命〜

2018-07-29 | 映画(や行)

■「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~/The Zookeeper's Wife」(2017年・チェコ=イギリス=アメリカ)

監督=ニキ・カーロ
主演=ジェシカ・チャステイン ヨハン・ヘルデンベルグ ダニエル・ブリュール

ソビエトの侵攻やナチスドイツの支配と、ポーランドは他国に踏みにじられてきた。
この映画はそんな時代に300人ものユダヤ人を救った夫婦の物語。
1939年、ワルシャワ動物園を営むヤンとアントニーナ夫妻は、
爆撃や猛獣の殺傷で動物たちが次々と命を落とすのを耐え忍んでいた。
やがてユダヤ人の排斥が厳しくなり、ワルシャワ市内のゲットーに夫妻の友人たちも収容されてしまう。
夫ヤンは動物園にユダヤ人を匿って逃す計画を妻に提案する。
アントニーナは最初反対するが、命を守りたい一心から園内で匿い、日々の世話をする役割になる。
しかし、園内はドイツ軍の弾薬庫としても使われるため日中は兵士が常駐、
しかも動物学者でもあるドイツ将校がアントニーナに言い寄ってくる。
そんな状況で、二人は多くのユダヤ人を守り通した、実話に基づく映画である。

アントニーナを演ずるのは「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン。
この映画のプロデュースも兼任している。
気丈で人情に厚いヒロインを演じている。
家で匿われているユダヤ人たちは気づかれないために物音を立てることもできない。
危うくドイツ将校にバレそうになるのを、彼に気があるような振りをして難を逃れたり、
そんな状況から夫ヤンから誤解されてしまったり。
映画全編に漂う緊張感に目が離せない。
これまで製作されたホロコースト映画はドイツの非道ぶりを徹底的に描くことが多かったが、
この映画ではないそれ程でもない。
それよりもいかにユダヤ人が生き延びたかを丁寧に情感豊かに描いていく。
特にドイツ兵に乱暴されて心を閉ざした少女をヤンが救い出し、
アントニーナと息子そしてウサギが彼女の心を癒していく様は印象的だ。

また、ゲットーで収容されている人々の中に、
アンジェイ・ワイダ監督が伝記映画「コルチャック先生」(90)を撮った
ヤヌシュ・コルチャックが出てくることは、是非注目して欲しいポイント。
苦境に立たされる子供たちに手を差し伸べる活動で社会的に評価された先生は、
ゲットー収容時に恩赦されたが、子供たちと共にガス室送りになって最期を遂げている。
映画ではその列車に乗り込む直前、ヤンが先生を逃がそうとするのを断る場面が出てくる。
「コルチャック先生」の悲しくも幻想的なラストシーンが思い出されて、涙なくして観られなかった。

ポーランドの厳しい歴史をスクリーンに刻み続けたワイダ監督亡き今、
こうしたテーマが広く観られることになるだろう英語脚本の作品として製作されたことは、
とても意義あることだと思うのだ。
何度も観たい映画でなくてもいい。
でもオスカー・シンドラーや杉浦千畝だけでなく、
こうした尊い行為で命を救った人々がいたということは語り継がれるべきだ。

スクリーンの外側の事実で泣かせる映画はズルいとか言うなかれ。
そこに脚色があったとしても、歴史を刻むことは映画がもつ偉大な使命なのだから。




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汚れた英雄

2017-03-20 | 映画(や行)

■「汚れた英雄」(1982年・日本)

監督=角川春樹
主演=草刈正雄 レベッカ・ホールデン 木の実ナナ 浅野温子 勝野洋

角川映画はリアルタイム世代だし、
ローズマリー・バトラーの主題歌Riding Highは中学時代に吹奏楽で演奏したこともある。
だけど映画「汚れた英雄」は観たことなかった…。
公開からウン十年経って初めて観ました。

レース映画は難しい。
ヘルメットで顔は見えないし、車やバイクの動きだけでストーリーを語るのは困難。
角川春樹氏は監督にも挑み、いろいろやりたい放題。
ゼッケン見せないと順位がわかりにくい中まあ頑張ってるとは思うが、
ロン・ハワード監督の「ラッシュ プライドと友情」がいかに手堅く巧い撮り方してるかよくわかる。

でもねぇ…サーキットの興奮が伝わらない。
伊武雅刀のMCもっと聴きたいし、誰も腕も振り上げず声援も飛ばさない観衆には興ざめ。
ただバイク乗りには、うなづけるポイントはきっといっぱいあるんでしょうね。

主人公はインディペンデントのチームでレースに挑んでいる。
有名バイクメーカーのチームとは違って、とにかく金がない。
スポンサーを募るだけでなく、裕福な女性達をパトロンにしてレース資金を出資してもらっているのだ。
身体を売って金を得るレーサーだから、"汚れた"英雄なのですな。
しかし、角川監督の演出が1982年当時にカッコいいと思えるあらゆることを、
これでもかっ!と詰め込んだだけに、
今観ると歯が浮きそうな台詞や吹き出しそうな女性へのアプローチ、
それに草刈正雄の鍛え上げられた背中と尻が満載。
だから単なるプレイボーイにしか見えないのが残念なところ。

大ヒットした主題歌は全部で3、4回流れるけど、
あのアドレナリン分泌を促しそうな曲が、
コンクリート打ちっ放しのおサレな部屋でペリエにライムを絞るだけの場面に使うのはいかがなものか(笑)。

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誘惑のアフロディーテ

2015-04-06 | 映画(や行)

■「誘惑のアフロディーテ/Mighty Aphrodite」(1995年・アメリカ)

●1995年・アカデミー賞 助演女優賞
●1995年・ゴールデングローブ賞 助演女優賞
●1995年・NY批評家協会賞 助演女優賞

監督=ウディ・アレン
主演=ウディ・アレン ミラ・ソルビーノ ヘレナ・ボナム・カーター マイケル・ラパポート

 世の中、知りたくてしかたないこともある。知らなくていいこともある。でもその好奇心が思いがけない出会いをもたらし、人生にいたずらをもたらしてくれる。時におもしろ可笑しく、時にシリアスに、時に皮肉たっぷりに男と女について考えさせてくれるウディ・アレン先生。この「誘惑のアフロディーテ」は、そのバランスが実に見事。妻が養子をとりたい、と言い出したことに最初は渋っていた主人公レニー。だが養子にした息子がとても優秀だと感じ、その母親がどんな人物だか興味が日に日に高まっていった。いろいろ探っていくうちに、母親たる人物は元ポルノ女優の娼婦リンダだと知ることになる。レニーは彼女がまっとうな人生を送れるように世話を焼き初め、一方で妻との間では離婚の危機が・・・。

 アレン作品では、舞台劇風な演出で物語の語り部が登場したり、主人公にアドバイスをする不思議な存在がよく登場する。最近なら「ローマでアモーレ」のアレック・ボールドウィン、古くは「ボギー、俺も男だ!」のハンフリー・ボガード風な人物。「誘惑のアフロディーテ」ではギリシア悲劇オディプス王の物語を演ずる人々(F・マーリー・エイブラハムが怪演)が、リンダに深入りするなと何度も忠告する。この客観的な視点が加わることで、観ている僕らには事態が悪くならないのか?この先いったいどうなるのか?という不安と期待が高まってくる。主人公レニーがリンダを娼婦をやめさせてまっとうな暮らしを送れるように奔走する姿は、まさにギリシア神話に出てくるピグマリオン。「マイ・フェア・レディ」や「プリティ・ウーマン」に形を変えて今も語り継がれる物語が、ここでもしっかりと継承されている楽しさ。ギリシア悲劇という高尚な題材を加えつつも、映画の中で飛び交うのは極めつけのエロ話。このギャップがたまらなく面白い。そしてオスカーを受賞したミラ・ソルビーノの強烈なキャラクター。アレン先生の女優を輝かせる手管はどの作品でも素晴らしい。そしてラストシーンの何とも言えない切なさ。この結末が、クライマックスまで暴走気味だったこの映画のストーリー見事に着地させてしんみりさせてくれる。

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許されざる者

2013-10-21 | 映画(や行)

■「許されざる者」(2013年・日本)

●2013年日本アカデミー賞 最優秀撮影賞・最優秀照明賞

監督=李相日(イ・サンイル)
主演=渡辺謙 柄本明 柳楽優弥 忽那汐里 佐藤浩市

 「悪人」「フラガール」の李相日監督が、クリント・イーストウッドのオスカー受賞作を同じ年の日本に舞台を移して翻案したリメイク作品。正直言うと、イーストウッドの「許されざる者」はそれ程好きな映画ではない。廃れゆく西部劇の伝統を守った作品であることはよしとしても、登場人物の描かれ方にどうも他のイーストウッド作品と違って説得力を感じなかったからだ。若造の言い出した儲け話に、経験も知恵もある年寄りガンマンが加わる流れに納得がいかなかった。娼婦に悪いことをしたヤツと悪徳保安官はやっつけられました・・・星条旗はためく下で成し遂げられた勧善懲悪。"許されざる者"はやっつけられた人たちだったのだ、と言うにはなんかすっきりしない幕切れにどうも納得いかずにいたのだ。それを日本を舞台にリメイク。正直どうなるのだろう・・・と思いながら鑑賞した。

 善と悪の境目は実は非常に曖昧だったりする。悪人にだって善人の顔がある。でも2時間という映画の世界では善悪はっきり境界線を引いて描かれるのが常だ。李監督は開拓時代の北海道に舞台を移しただけでなく、登場人物の設定やストーリーの運び方についても巧みな改変を加えている。そして役者たちの見事な演技で完成された映画。オリジナル版で感じられなかった説得力が僕には感じられた。ちょうどこの「許されざる者」を観る直前に、僕は今村昌平監督の「復讐するは我にあり」を観ていた。映画序盤の殺人は千枚通しでメッタ刺しにする場面だ。緒方拳が農地の隅で何度も何度も鋭い先端を振り下ろす。「許されざる者」の冒頭は、渡辺謙演じる十兵衛が追っ手を木の枝で刺し殺す。同じような場面のはずなのに印象がまったく違う。十兵衛のそれは過去を断ち切り、生きるための決死の行為。もちろん決して肯定されるべきものではないが、倒幕の混乱の中で多くの人を殺めてしまい、人から恐れられた"十兵衛"から逃れることである。冒頭のこの緊迫感で一気に心がつかまれた。十兵衛が賞金稼ぎに再び刀を手にするまでの流れは、オリジナル版で最も合点がいかなかった部分。旧知の仲である金吾からの誘いとして、若い賞金稼ぎをアイヌの血を引く若者にしたことは、物語を一層深いものにしている。

 緊張感に満ちた2時間。この映画には誰も善人と呼べる人がいないことに気付く。町を牛耳る警察署長、娼婦の顔に傷を付けた男たち、命を奪われるまでではなかったが賞金で彼らを殺させようとする娼婦たち、それに群がる賞金稼ぎ、強き側の腰巾着となる小説家、アイヌの人々を虐げる和人たち。主人公十兵衛もすべてを成し遂げた後、誰に感謝されるでもなく「地獄で待ってろ」と言い残して町を去る。オリジナル版とは違って、彼の行く先に平穏はない。雪と氷が積もった荒野があるだけ。生きていくことは厳しいこと。何が善で何が悪なのか、何が許されて何が許されないことなのか。

 決して明るい気持にさせてくれる映画ではない。しかし、僕らが普段考えている正義ってなんだろう、と心にひっかかるものを残す映画であることは間違いない。それは僕らが日々を生きていく中で忘れがちなこと。一歩引いたところから他人の人生を見つめることができる、映画鑑賞という時間だからこそなせること。こういう映画を敬遠せずに観ることは大切なことだ。それは人生をより深くする。・・・ここまで書いて僕はふと気付いた。この感想って、昨今のイーストウッド監督作品を観て思う感慨そのものではないか。あの頃納得がいかなかったオリジナルの「許されざる者」、今観ると昔とは違った味わいを感じるのかもしれない。

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欲望のあいまいな対象

2013-05-15 | 映画(や行)

■「欲望のあいまいな対象/Cet Odscur Objet Du Desir」(1977年・フランス=スペイン)

監督=ルイス・ブニュエル
主演=フェルナンド・レイ キャロル・ブーケ アンヘラ・モリーナ

 男にとって不可解な生き物である女性。しかし、男は女に惹かれずにはいられない。メイドとして務めていた若い女にのめり込んでしまったフェルナンド・レイ扮する初老男が、彼女に振り回される様を描く。ルイス・ブニュエル監督の遺作となったフィルム。「ブルジョアジーの密かな愉しみ」では頭を抱えてしまった僕だが、これは快作!気に入った。コンパートメントで主人公によって語られるお話は、同じ事を繰り返しているだけなのだけど、ブニュエルの魔法でこれが不思議な魅力が出てくるんだよね。これに財産目当ての殺しが絡んでくると、「暗くなるまでこの恋を」的な男女の腐れ縁話になるのだろうけど。

 年取って女に狂うと大変とはよく言うけれど、やはりそうなのかなぁ。主人公の狂気じみた愛情はとどまるところを知らず、ヨーロッパ各地へ彼女を追いかける。じらしにじらされる彼の苦悩はおかしくもあり、あわれでもあり、男としては同情したり(笑)。征服欲、所有欲・・・やはり男は情けないくらいに煩悩の固まりだ。されど、そんな男たちの姿を銀幕で眺め、我が身を振り返るのことができるのも映画のおかげ。ありがたや、ありがたや。

 ピエール・ルイスの原作はマレーネ・ディートリッヒやブリジッド・バルドー主演で、今まで何度も映画化されたものらしい。昔の歌謡曲に 追いかければ逃ーげていく あなたは罪な人ーね~(♪射手座の女) ってのがあったけど(失礼)、誘ったかと思えば離れていく、”あいまいな”女性の二面性を表現するために、ブニュエルは映画史上例のない二人一役という手法を用いた。”処女性”を演ずるのはこれがデビュー作となったキャロル・ブーケ。スレンダーでクールな側面を演ずる。一方”娼婦性”を演ずるのが、肉感的なスペイン女優アンヘラ・モリーナ。どちらも好演。そもそもはマリア・シュナイダー一人で演ずる予定だったらしいんだけど、この手法に変更したそうな。これには賛否あるところだろうけど、僕は納得します。

(2002年筆)



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