Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

007/サンダーボール作戦

2023-01-03 | 映画(た行)

◼️「007/サンダーボール作戦/Thunderball」(1965年・イギリス)

監督=テレンス・ヤング
主演=ショーン・コネリー アドルフォ・チェリ クローディーヌ・オージェ 

僕に映画を仕込んだ親父殿と叔父は、007映画が大好き。大人たちがボンドガールをめぐってこんな会話をしていた。
「兄貴は誰が一番?」
「そりゃタチアナ・ロマノヴァやろ」
「「ロシアより愛をこめて」か。いいね」
その会話に少年は介入した。アメリカ映画以外の渋いやつに詳しい叔父の意見に興味があったのだ。
「おいちゃんは誰が好きなん?」
よくぞ聞いてくれたという顔をした叔父は
「ドミノ」
と答えた。「サンダーボール作戦」である。

「サンダーボール作戦」を観たのはTBS系の「月曜ロードショー」の放送だった。僕が初めて観た007映画である。改めて観て思う。こんなアダルトな雰囲気の映画だったっけ?。親はよく笑って観せてくれたよな(汗)。ガラス越しに絡みあったり、ミンクの毛皮で愛撫したりの保養施設の場面は、僕が観たテレビ放送版ではカットされていた。それを抜きにしても、悪役女性フィオナとのベッドシーンや会話はお子様には刺激強いし、叔父さんが大好きなクローディーヌ・オージェは水着姿が大半を占める。フィオナが身支度をする場面で、背中のジッパーをボンドに頼む場面。
「こいつはいつやってもいいもんだ」
(吹替版育ちなもので😅)
って粋な台詞。実生活でつい使ってしまったことありまーす(恥)。

それにしてもここまでの3作品とはスケールが違う。スパイの活躍は国際レベルの危機を救うものだ、という厳しさと重大さが伝わってくる。北大西洋条約機構(NATO)を脅迫するスペクターの企みもデカいけれど、これだけの水中撮影をやって一本の映画にするにはかなりの期間と工夫が必要だったはず。撮影の規模が違う。クライマックスの水中戦は、巧みな編集でテンポ良くしかも何が起きているのかきちんと伝わる。ゆったりとした動きだし、ダイビングマスクで表情もわかりにくいはずなのに、緊張感も伝わってくる。一方で、次に何が起こるかわからない水中シーンは、ジョン・バリーの劇伴はどこか不安定な二拍三連符のメロディが続き、緊張感を高めてくれる。プロの仕事が積み重なった映画。

ただスパイアクションのスピーディな展開を期待するとじれったく感じる。ボンドが指令を受けるまでが長いし、なかなか事態は進展しない。そしてボンドが真相を報告することができたのはタイムリミットもギリギリ。観ているこっちまで焦らされる。

話は変わるが、「月曜ロードショー」での荻昌弘氏の解説が大好きだった。見どころを伝えるだけじゃなく、期待をあおるだけじゃなく、映画の良さや作者の意図を考える手助けをしてくれる解説だった。007映画を放送する回はとてもウキウキしてるように見えた。きっと、映画は自分で感想を噛みしめるのもいいけれど、多くの人と一緒に楽しめるものだと伝えてくれていたような気がするのだ。僕が大学4年の夏。荻昌弘氏が亡くなった。追悼の文言が「月曜ロードショー」の本編終了後に映し出された。「007/サンダーボール作戦」が放送された日だった。






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チリンの鈴

2022-12-15 | 映画(た行)

◼️「チリンの鈴」(1978年・日本)

監督=波多正美
声の出演=松島みのり 神谷明 加藤精三

2009年、生息地の美術館で「やなせたかしの世界展」が催された。長男(当時9歳)は未就学児時代にアンパンマンにどハマりして育ったので一緒に出かけた。やなせたかし氏は戦争で正義の脆さと飢餓を経験した。飢えた人を救うのが本当の英雄、甘いものは疲れた人に力をくれる。その経験がアンパンマンへとつながっている。誰も死なない、それぞれのいいところが発揮される幸せな世界。

その展覧会である絵本の原画に目を奪われた。緑色の背景に子羊が描かれた作品、「チリンの鈴」である。1978年にサンリオがアニメーション映画化して、僕は多分映画館で小学生の頃に観ているように思う。タイトルを目にして、おぼろげながら猛烈に悲しい物語を思い出した。タイトルは忘れてもその悲しさだけが記憶に刻まれていたのだろう。原画はストーリーと共に全てが展示されていた。文章を読みながらゆっくりと歩みを進めた。

チリンは羊の子。ある日おおかみのウォーに群れが襲われ、母親は自分をかばって死んでしまう。生き残ったチリンは、ウォーのように強くなりたい、とウォーに弟子入りを頼み込む。数年経って、チリンは得体の知れないけだものに成長した。ある晩、チリンの生まれ故郷の牧場を襲うことにしたウォー。チリンは番犬を退け、羊たちがいる小屋へと向かう。そこで見た光景にチリンの復讐心が再びよみがえる。

これだ。子供の時観たアニメの話だ。やなせたかしだったのか。他の作品にはない、復讐と死を描く悲しい結末に再び触れて、初めて観た時の、心にぽっかり穴があくような感覚を思い出した。無常観と悲しみ、むなしさに彩られた傑作。長男は売店で再び「チリンの鈴」のページをめくっていた。多分、心に響く何かがあったのだろう。

配信でアニメを観られることを知ってウン十年ぶりに再鑑賞。サンリオ映画の幸福な内容を期待していたら、衝撃を受けること必至。若き日の神谷明が「僕は羊だ!」と叫ぶクライマックス。加藤精三演ずる狼ウーの最期のひと言は「巨人の星」の星一徹並みに強く心に残る。昔の子供向けアニメだから技術や演出はその頃らしいクオリティだけど、暗い岩山や成長したチリンのデザインはインパクトがある。そして心に残る作品になり得たのは、やっぱりやなせたかしの物語の力。





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トッツィー

2022-10-19 | 映画(た行)

◼️「トッツィー/Tootsie」(1982年・アメリカ)

監督=シドニー・ポラック
主演=ダスティン・ホフマン ジェシカ・ラング ダブニー・コールマン テリー・ガー

初めて観たのは高校時代。映画ファンを自称するようになった頃。三者面談で「映画なんて高尚な趣味は…」と担任に批判されて、親の前で先生を論破しようと熱弁をふるったおバカだった頃(恥)。新作「トッツィー」はお気に入りの映画だった。地元の映画館で鑑賞。リチャード・プライヤー主演「おもちゃがくれた愛」と二本立て。2022年9月にBSプレミアムの録画で再鑑賞。

初鑑賞当時、まだ数年の映画鑑賞歴でしかないのに、主要キャストの出演作を何かしら観ていた。過去に観た映画でのイメージがあるから、あの人がこんな演技を!こんな役を!すげえな役者って!と感激。俳優で映画を観る楽しみと映画を観続けることの面白さを実感できたのだろう。ダスティン・ホフマンは中学3年で「卒業」を観て(おマセ?)以来のファンだったし、ジェシカ・ラングは「キングコング」、ダブニー・コールマンは「9時から5時まで」、テリー・ガーは「未知との遭遇」、ルームメイト役のビル・マーレイは「パラダイス・アーミー」を観ていたし、チャールズ・ダーニングはいろんな映画で脇役やってる。見たことのある顔ばかり。特撮の添え物みたいに言われていたジェシカ・ラングが、等身大のヒロインで素敵だった。

ラストの
「あの黄色い服貸してよ」
のひと言で涙🥲。ストレートに「わかった、許してあげる」とは言わない。昔の映画は台詞が粋なんだよね。
「私、意外と男に詳しいのよ」
そりゃそうだ!🤣観客だからわかるひと言。こういう仕掛けは観ている側の気持ちをアゲてくれるね。ダブニー・コールマンは「9時から5時まで」と同じく、また女性の敵みたいな中年男役やってる!。以後このイメージで僕の中で定着したw
「どうりで俺に魅力を感じないわけだ」🤣

演出家に口応えばかりする頑固な俳優マイケル。2年間失業中の彼は、仕事を得る為に、女装してドロシーと名乗り、ソープオペラ(昼ドラ)の出演を勝ち取り、一躍人気者になってしまう。その一方で共演者ジュリーに恋をしたマイケル。果たして恋の行方は、彼をめぐる騒動の結末は。

マイケルがやったことは決して褒められたことではないのだけれど、ラストで彼が「女装して男として成長した」というのは間違いじゃない。それは今まで自分のことばかりだった彼が、人の痛みや思いを知る経験でもあったのだ。映画だから許される話だとは思うが爽やかな結末が素敵だ。やっぱりダスティン・ホフマンの演じるちょっと情けない男が好きだ。

音楽はデイブ・グルーシン、主題歌It Might Be Youはスティーブン・ビショップ。
楽屋が相部屋になる下着姿の女性ジーナ・デイビスだったのか😳

Tootsie (1982) Trailer #1 | Movieclips Classic Trailers

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テルマエ・ロマエ

2022-10-14 | 映画(た行)





◼️「テルマエ・ロマエ」(2012年・日本)

監督=武内英樹
主演=阿部寛 上戸彩 市村正親 北村一輝

ヤマザキマリの原作が大好きだ。それを実写映画化というだけでも驚きなのに、まさか日本人(の濃い顔)でキャスティングする驚き。どうせ話題性だけでしょ、と公開当時は完全にスルーしていた。映画はヒットを記録したが、どうせテレビ局資本の映画でしょ、とまだまだ見向きもしなかった。ところが、海外特にイタリアでの反応が素晴らしいと聞き、フェリーニも愛したチネチッタスタジオで撮影が行われたとの情報もやっと耳に入ってきた。観てもいいかな(何様?w)

タナダユキ監督が「マイ・ブロークン・マリコ」のインタビューで、「マンガ原作は怖い。画があることでカットも影響される。役者にもプレッシャーがある。でも映画化は原作を変えるのではなく、それを活かせばいいという考えになりました」と話している。なるほど。

そう考えると実写版「テルマエ・ロマエ」は実にバランスがいい。前半は原作のエピソードを間髪入れずに繰り出してくる。あー、確かに実写化すればこうなるよな。テンポもいいし、面白い。原作で笑わせてくれた印象深い場面も再現度高いし、チネチッタに設けられた古代ローマのセット撮影の説得力に、スタッフの本気が見える。観客の心を掴んで離さない仕掛けが次々に繰り出される。でもここまでがファンサービス。

映画オリジナルのエピソードとなる後半は、歴史改変の阻止とルシウスの技師としてのプライド、そこに温泉文化の誇りが詰め込まれ、複数要素のハラハラで最後まで飽きさせない。劇場版らしいスケールの大きさが楽しませてくれる。原作へのリスペクトとエンターテイメントとしての仰々しさ。この作風を武内監督は「翔んで埼玉」でさらに昇華させたんだと再認識。これがタナダユキ監督が言う"原作を活かす"なんだろう。

原作のよさあっての映画ではある。でも実写化したからこそ表現できたのは、水の質感と湯に浸かる心地よさなのではなかろうか。湯気の向こうにいる人たちの気持ちよさそうな緩んだ表情が、世知辛い日々でしかめてしまった僕らの表情も気持ちも緩ませてくれる。そして実際に湯に浸かってさらにホッとしたいと思わせてくれるのだ。





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ツーリスト

2022-09-22 | 映画(た行)

◼️「ツーリスト/The Tourist」(2010年・アメリカ=フランス)

監督=フローリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
主演=アンジェリーナ・ジョリー ジョニー・デップ ポール・ベタニー スティーブン・バーコフ ティモシー・ダルトン

善き人のためのソナタ」のドナースマルク監督が、大スター共演で撮ったサスペンス映画。正直なところ、この手の映画に出ているアンジーは苦手。あの割れた唇と自信たっぷりの表情を見ると、なんかやらかす人、フツーじゃない人、なんか企んでる人という先入観が湧き上がり、あー、やっぱりねーって展開が続く。ジョニデも眼の演技が上手な人だから、彼は不安な状態に陥ってキョロキョロしながらドギマギするに違いないと思ってしまう。ほーらやっぱりねーって展開が続く。「ツーリスト」はそんな期待通りで、期待を超えない映画だ。

パリにいる一人の美女エリーズを英国のスパイ組織が追っている場面から始まる。監視カメラ越しの映像。手紙で送られる指示に従って彼女はベネチアに向かう列車に乗る。手紙の主に「僕に似た背格好の男性を選ぶように」との指示があり、彼女はアメリカ人数学教師フランクの元に近づく。行動を共にしてホテルの同室に誘われる。一夜明けると彼は一人。すると突然殺し屋が二人やって来た…。

ヒッチコック風の巻き込まれ型サスペンスを狙ったと思われるのだが、なんか収まりが悪い印象を受ける。旅情をそそる舞台なのに不安な立場とか、複数の追手が迫るストーリーとか面白い要素はあるのだが、なんか居心地が悪い。その決定的な理由は巻きこまれる側の目線を貫いていないことだ。

ヒッチコックのサスペンスが面白いのは、観客には巻き込まれてしまう登場人物と同じ情報量しか与えられないことにある。ところどころに悪党一味の動きが挟まっても、不安なことには変わりない。また事件に関係する美女の素性もなかなかわからないから、さらに不安が高まる。しかし、この「ツーリスト」では、巻きこまれる男性は過剰に騒ぎ立てないし、女性の素性は意外にあっさりと観客に明かされてしまう。謎が謎のまま終盤まで突っ走るのではなく、映画前半で人間関係をめぐる疑問はほぼ明らかになり、そこから先は追いつ追われつの展開。そしてすべての種明かし。

そこで僕は気づく。
あれ?誰か巻き込まれてたっけ?

確かにこの映画の結末は意外なんだけど、最初にアンジーに対して思った"なんかやらかす""フツーじゃない""なんか企んでる"がすべて的中する。申し訳ないんだけど、彼女は出てくるだけでそこらにいるいい人に見えないんだもの。ほーら、やっぱりね!脚本に参加している一人クリストファー・マッカリーは、役者(近頃はトム君)をかっこよく見せることに長けている人物。そういう面ではいい仕事。

共演陣が曲者ぞろいなのも楽しい。「ウィンブルドン」のポール・ベタニー、その上司は元ジェームズ・ボンド役者のティモシー・ダルトン(大好き)。悪役の親玉は「ランボー2」のスティーブン・バーコフ、アンジーにメッセージを運んでくる謎の男は「オールド」のお父ちゃんルーファス・シーウェル。


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地球の静止する日

2022-06-29 | 映画(た行)






◼️「地球の静止する日/The Day The Earth Stood Still」(1951年・アメリカ)

監督=ロバート・ワイズ
主演=マイケル・レニー パトリシア・ニール ヒュー・マーロウ サム・ジャッフェ

SFクラシック映画の秀作。ワシントンに着陸した銀色の円盤。中から現れた異星人クォトゥは、地球人に伝えたいメッセージがあるので、意思決定ができるしかるべきメンバーを集めて欲しいと言う。お供のロボットのゴートは、地球の兵器を無力化するパワーを持っている。軍が発砲して怪我をしたクォトゥは、理解者を求めて街の人々に紛れ、下宿した先でシングルマザーのヘレンと息子のボビーと親交を深める。大学教授の理解と協力を得ることができそうになった矢先、彼を追う軍や政府が迫ってくる。

「ウエストサイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」など、数多くの名作映画を手がけたロバート・ワイズ監督。SF映画がメジャーでなかった時代に問題作「アンドロメダ・・・」を、そして「スタートレック」と、ちゃんとしたSF映画を撮れる人だ。

「地球の静止する日」は、それよりも遥か昔に撮られた作品だが、核兵器開発を止めず侵略を繰り返す人類に警鐘を鳴らす確固たるメッセージを打ち出している。核をチラつかせて隣国に侵攻する国家に世界が揺さぶられている2022年に観ると、そのメッセージはさらに響く。

ドンパチもなく、ゴートの活躍もほんの少しだからと物足りなく思う感想も多いとは思う。しかし、これは娯楽作のフォーマットで世界平和を訴えた作品。そこが大事なところだ。これが製作されたのは1951年。東西冷戦の対立も色濃くなり、朝鮮戦争真っ最中の時期だ。そんな時期に反核のメッセージを訴えているアメリカ映画というだけでもかなり異色作。そのメッセージが今でも通ずるって、世界が何も変わっていないという残念なことでもある。

少年との心の交流や、疑念や欲が人間関係を崩壊させるドラマ部分、ボビーがクォトゥを追いかけて正体を知るシーンの緊迫感。特撮だけでなく見どころは多々ある。ジム・キャリー主演の「マジェスティック」では、この「地球の静止する日」が登場するロマンティックなシーンあり(大好き♡)。






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天国の駅 HEAVEN STATION

2022-06-25 | 映画(た行)


◼️「天国の駅 HEAVEN STATION」(1984年・日本)

監督=出目昌伸
主演=吉永小百合 西田敏行 三浦友和 津川雅彦 丹波哲郎

18歳になった僕は映画館に出かけた。お目当ては、秋吉久美子の「ひとひらの雪」を観るためだ。入り口には目立つ看板「18歳未満入場お断り」。僕はそれがどうしたっ、と胸を張って入場券を買い求めた。そして4時間後。映画館から出た僕は入場する前と変化していた。併映だった「天国の駅」にめちゃくちゃ感動。そう、僕はサユリストになっていたのだ。

ホテル日本閣殺人事件の主犯だった日本初の女性死刑囚をモデルに、薄幸のヒロインがなぜ殺人に至ったのかが語られる物語。吉永小百合が初の汚れ役とか、三浦友和が初の悪人役とか、そんな予備知識は皆無でスクリーンに向かった。

2022年5月、ウン十年ぶりに鑑賞。ヒロインが周囲の男たちに翻弄される様子がとにかく痛々しい。それは初めて観た時も同じだったんだけど、今の年齢で観ると男たちそれぞれの事情があの頃よりも理解できる。ひたすらズルい三浦友和は別にして、傷痍軍人だった夫の嫉妬や悔しさもいかほどかと思うし、望まない妻を押しつけられた大和閣の主人も辛かったんだろなと思う。怪我をさせてしまったことを詫びる津川雅彦の涙を策略のように感じていたけど、本心だったのかもな。それでも映画後半の横暴ぶりは憎たらしいし、許せない。

モデルとなった死刑囚は毒婦とも呼ばれたと聞くが、吉永小百合が演じることへの配慮なのかやむにやまれず至った殺人と描かれる。当時10代の僕が持っていた吉永小百合のパブリックイメージを完全に裏切る役柄のギャップと、イメージどおりの美しさと誰にでも見せる優しさ。
「愛が欲しかったんだと思います」
「どこに行こうとしたのかね」「天国です」
この映画の吉永小百合の演技にともかく心を揺さぶられた。知的障害を抱えた男性役を演じた西田敏行の純粋さと狂気が涙を誘う。

18歳の僕が映画館を出て感じた変化がもう一つ。4時間かけて観た2本の映画両方で、ヒロインを弄んだ津川雅彦が大っ嫌いになったのだw。でも今の年齢ならわかる。あんなに憎たらしいほど性へ執着するエロ親父を、時にダンディに時に狂おしく演じられるのは、津川雅彦しかいないんだ。




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トップガン マーヴェリック

2022-05-29 | 映画(た行)

◼️「トップガン マーヴェリック/Topgun Marverick」(2020年・アメリカ)

監督=ジョセフ・コシンスキー
主演=トム・クルーズ ジェニファー・コネリー マイルズ・テラー ジョン・ハム

もぉー、おじさん世代直撃弾。

Topgun Anthemの電子ドラムが映画館に流れ始め、前作と同じトップガンの説明書きからタイトル。空母の滑走路で働く人々が映され、テイクオフと共にケニー・ロギンスのDanger Zone。1986年の前作のまんまだ。われらがトム君はカワサキのバイクにまたがり、基地へと突っ走る。さっきチケット売り場で僕の前にいたTomcatのワッペン付きTシャツ着てたおじさん感激してるんじゃね?。とか言ってる僕も「トップガン」ゆかりの座席番号F-14に座ってるんだが😝。

ところが時代は変わっている。無人機の開発が進み、主人公のような無鉄砲で命令に黙って従わないパイロットは不要になっているのだ。DXとか慣れない言葉や技術に日々追いたてられるスクリーンのこっち側のおじさんたちは思う。あぁ、マーヴェリックもこんな扱いされる時代なのか。ある任務のために集められたパイロットに指導をするよう命令が下される。「教えるか、もう飛ばないかだ」。年齢重ねるといろんな理由から現場を外される。おじさん世代はもう共感しかない。

集められた若手たちは、ウン十年前のマーヴェリックと同様に自信に満ちた生意気な連中ばかりだ。その中にかつての相棒グースの息子がいた。面と向かうとまともに話もできない。過去の辛い記憶が彼を苦しめる。いざ空の上ではそんな若手を翻弄するマーヴェリックがやたらカッコいい。いいぞ、おじさんをナメたらあかんぞ。経験値ってやつが違うんだからな。スクリーンのこっち側のおじさんたちもさぞかし痛快に思っているはずだ。

だが、マーヴェリックの作戦や指導や態度はは上官たちとことごとく対立し、彼は苦境に立つ。中間管理職として日々奮闘しているスクリーンのこっち側のおじさんたちは、上官に立ち向かうマーヴェリックの言動にヒヤヒヤしながらも、立ち向かう姿を誇らしく思う。しかし彼らが挑む作戦は、「スターウォーズEP4」のクライマックスを思い出さずにはいられない困難なもの。どうすんだマーヴェリック。いくら君でもフォースは使えまい。果たして作戦は成功できるのか?

酒場で流れてるデビッド・ボウイやパワーステーションもツボなんだけど(細かい?)、何よりもマーヴェリックの理解者、唯一の弱いところを見せられる相手であるペニーの存在が大きい。僕らも分からない奴らとの日常に疲れる日々。分かってくれる誰かって大切だよなぁ🥲。ペニーを演ずるジェニファー・コネリー、年齢重ねてますます美しい。家までバイクで送ってもらって、ドアを閉めずに黙って家に入るOKサイン。それを見てニタニタしてしまったのは、トムだけじゃないはず。おっと💦

おじさん世代が若いもんに実力を見せつけ、お互いを理解し合っていく様子が素晴らしい。これまで若い役者に負けないぞと身体を張って頑張ってきたトム君が、歳相応のカッコよさを発揮した映画だとも言える。だからCG全盛のこの時代に、トム君がスクリーンで本物を観客に見せようと頑張り続ける姿が、これまで以上に響く。こういう映画スターって、もうハリウッドじゃ絶滅危惧種じゃないだろか。大昔なら活動屋精神と呼ぶようなトム君の映画への向き合い方。時にクレイジーだから真似る必要はないけれど、その真摯な気持ちから学ぶことはきっと多々あるはずだ。そしてその心意気は、スクリーンのこっち側のおじさん世代も確実に勇気づけてくれている。明日からも頑張ろう。大嫌いな「トップガン」の続編を観てこんな気持ちになるなんて。歳とったのかな💧。





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天才スピヴェット

2022-04-24 | 映画(た行)

◼️「天才スピヴェット/L'extravagant voyage du jeune et prodigieux T.S. Spivet」(2013年・フランス=カナダ)

監督=ジャン・ピエール・ジュネ
主演=カイル・キャトレット ヘレナ・ボナム・カーター ジュディ・デイヴィス ロバート・メイレット

ジャン・ピエール・ジュネ監督作が大好きだ。独自の世界観とファンタジックな表現は、他の誰とも違う。登場人物たちも一風変わった個性的なキャラばかり。特に主人公は、「アメリ」のアメリ・プーランを筆頭に、みんな自分はどこか世間の感覚とは違うと感じている。分別のついた大人だし、感覚の違いを受け入れて世間とつながっている。さて、「天才スピヴェット」の主人公T・S・スピヴェットは10歳の少年。まだ他人との違いに悩み、もがく年頃だ。勝手な想像だけど、この物語はジュネ監督も少年時代に思ってきたことなのかもしれない。

モンタナのど田舎に住む少年は、好き勝手に生きてる家族と、銃暴発事故で亡くなった兄弟への負い目を抱えていた。科学と実験、分析にしか興味がなくて、学校では厄介者扱い。しかし彼の発明や発想は、科学雑誌に投稿すると称賛されていた。そんな彼のもとに学術研究機関スミソニアン協会から、受賞の知らせが入る。大人だと偽った彼は、家を抜け出して、一路ワシントンへと向かう。

映像美とロードムービーの面白さ。素性の知れない彼にいろいろ指南する人々との出会いが彼を大きくする。袖ふれあうも多少の縁と言うけれど、人との出会いは影響をくれる。

派手な第一印象のわりに映画全体としては地味。だけど、これまでのビジュアルで訴えるジュネ映画よりも、ちょっとだけ地に着いた感じは決して悪くない。家族のキャラはハチャメチャなのに、うまく収束するのは素敵。

世間の注目を集めて、現実に振り回されるT・Sの元に駆けつけるのはやっぱり家族。勝手に家を出た彼に、父親がかけるひと言がいい。「お前が無事ならいい」放任なようでちゃんと気にかけている不器用な父親。息子に「帰るか?」と尋ねるラストはグッときた。昆虫研究家の母を演ずるヘレナ・ボナム・カーターが、これまた極端な役柄に母性を滲ませて好演。

お互いをわかってないようで、お互いをわかってる。好き勝手にやってるようで、お互いの好き勝手を認めている。突き詰めればこのお話は、誰かに認められるって幸せなことだよね、というメッセージ。家族や学校は認めてくれないけれど、世間が認めてくれる。でも世間はそれを時にビジネスための食い物にする。誰が理解者なら自分にとって幸せなのか。「アメリ」の満足感と幸福感とは違うけれど、ほっこりした気持ちにしてくれる佳作。みんな違って、みんないい。そして、それを認めてくれる誰かがいるって大事なこと。




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007/ゴールドフィンガー

2022-04-16 | 映画(た行)

◼️「007/ゴールドフィンガー/Goldfinger」(1964年・イギリス)

監督=ガイ・ハミルトン
主演=ショーン・コネリー ゲルト・フレーベ オナー・ブラックマン シャーリー・イートン

子供の頃、自動車の図鑑を眺めて楽しんでいた。あるページで手が止まった。その見開きのページには「スパイの車」とある。フロントに機関銃、リアから煙幕が出て、ナンバープレートが回転して変わり、隣を走る車をパンクさせる装備があって、助手席に乗った悪い奴は屋根から放り出される。なんだこれ、カッコいい。ウルトラ警備隊のポインター以上に少年の心に刻まれた。そして数年後。その車が登場するスパイ映画を少年が観る日が訪れた。「007/ゴールドフィンガー」である。

アメリカが舞台になる最初の作品だけに派手な印象のエンターテイメント。マイアミビーチからイギリス、スイス、再びアメリカと舞台も豪華だし、ボンドのプレイボーイ振りはますますお盛ん。そしてスパイ映画の魅力である秘密兵器が大活躍する楽しさ。コネリー主演の007映画では欧米で最も支持されているというのはうなづける。

悪役は、自分の保有する金を増やし、価値を上げるためには手段を選ばない大富豪ゴールドフィンガー。吹替版育ちなもので、顔を見るだけで滝口順平の声が脳内再生されちまう。憎たらしい役柄だが、演じたゲルト・フレーべは、ナチス党員の肩書を利用してドイツ国内のユダヤ人を逃して匿っていたという経歴があると聞く。こういう裏話を知ると映画ってまた面白い。そしてオッドジョブ(吹替版育ちなもので"よろず屋"とつい呼んでしまう😅)の不敵な存在感。こうした個性的な悪役の存在が007映画を楽しくしてくれる。

ボンドが女性を味方につけるやり口がかなり露骨で、それがなければ成功しなかった任務にも見える。オナー・ブラックマン演ずるプッシー・ガロア(この役名が既に男性目線)は「男性に興味ない」と言い切っている。今のLGBT目線だと、彼女を力づくで押し倒したボンドを不快に感じる方もいるかもしれない。ゴールドフィンガーのやり口に疑問を感じていた気持ちが表現されていたら納得できるのかもしれない。

007映画好きの親父殿は、身支度を整えたボンドに、ガロアが「剃りあとが素敵よ」と言って銃で頬を撫でる場面でニターっと笑う。ほんっと大人ってエッチなんだから、と当時少年だった僕は思った。今配信で見られる吹替では「深剃りは危険よ」との訳になっていて、ストーリーに緊張感をもたせるひと言に感じられる。どっちのニュアンスなんだろ。




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