僕の音楽史を振り返る中で、アイドルものも忘れてはいけない。シングルやアルバムをきちんと買うくらいまで好きだったのは中森明菜と原田知世だった。折りにも80年代後半のアイドル全盛期に高校・大学と過ごしてきたので、影響がないといえば大嘘になる。おニャン子だって人並みに(?)聴いたし、あの「スケバン刑事」だってほとんど見逃さずに見ている。でもそんな時代のアイドルたちが歌う曲は、まるでインフルエンザのよう。ひどく夢中になるけれども、それらは一過性の曲。そうした運命を背負って生まれたような曲たちだ。うしろゆびさされ組の「象さんのすきゃんてぃ」や福永恵規の「風のインビテイション」、新田恵理の「冬のオペラグラス」が時代を超える曲だとは言い難いだろう。僕らはそうしたアイドルたちをアーティストとは呼ばなかった。リリースするアルバムのクオリティが高いかどうか?。これはアーティスト視できるかの大きなポイントだったのだ。
アルバムのクオリティが高い80年代アイドル・・・といえば、僕は松田聖子(「ユートピア」は傑作だと思う)、中森明菜(「ビター&スイート」は名作)あたりを挙げたい。そして僕が最も愛聴する80年代アイドルのアルバムは、斉藤由貴の「age(アージュ)」だ。初期の斉藤由貴というと、「卒業」や「情熱」を代表として清楚な儚げなイメージがどうしてもつきまとう。初主演作「雪の断章」もまさにそれだった。確かに活発そうな面も次第に出てくるのだが、どうしても僕らにはか細い声で
♪さぁよなら、にんじん、ポッテト(「土曜日のタマネギ」)
と歌う由貴チャンのイメージが定番だった。
そんな頃、井上陽水の「夢の中へ」のカヴァーが発表された。これが驚くほどダンサブルだったから、僕らは驚いたものさ。アルバム「age」もその延長上にあり、崎谷健次郎のプロデュースが実に素晴らしい。サウンドデザインに凝ったものが多くて、全く飽きさせることのないアルバムだ。ヒットシングルに頼らずにもここまでの秀作は作ることができる・・・そういう自信に満ちたアルバムだった。その後小説を発表するなど、他分野でもご活躍の由貴チャンを僕らはアーティストと呼ぶことをはばからない。しかし由貴チャンが、「age」で新境地にチャレンジしたことも、あの時代の流れの中で忘れられていくんだろうか。でもその輝きは僕らの中では永遠。それこそがアイドルの楽曲の証でもある。