■「犬神家の一族」(2006年・日本)
監督=市川崑
主演=石坂浩二 松嶋菜々子 尾上菊之助 富司純子 松坂慶子
実は僕、横溝正史シリーズが大好き。角川映画世代なので、角川のメディアミックスの広報戦略を意識にすり込まれている。中でも「犬神家の一族」や「悪魔の手毬歌」は何度観たかわからない。大野雄二のテーマ曲も、石坂浩二の金田一耕助も大好き。そんな僕が角川映画30周年としてリメイクされた「犬神家の一族」を観てきた(ぬぁんと「大奥」と2本立て・・・濃密な4時間)。楽しい時間を過ごせた。
デカ文字と悲しげなメロディーのタイトルバック。文字も並べ方一つでデザインとなりうる。30年前のオリジナルでもそう感じたが、今回もそれは受け継がれている。かと思ったらそこから先もオリジナルの演出がカット割りから台詞に至るまで再現されていた。繰り返し観て、見慣れたはずの場面やストーリーがキャストを変えて届けられる。懐かしいのと嬉しいので、ワクワクしながら銀幕を見つめる自分。台詞もほとんど同じではなかろうか。大滝秀治扮する神官から佐清の「出征手形」の存在を聞く場面。手形と見比べようと誰が言い出したのか尋ねる金田一。大滝秀治の演技の間に我慢できなくなった僕は、映画館の暗闇で声を出してしまった。「珠世さんです!」・・・前の席のおじさんがふり向く。あ、恥ずかし・・・。
でもオリジナルの「犬神家~」を愛した者としては、全体的な怪奇ムードが薄れていることはやや残念でもある。珠世が襲われる場面でブラウスが脱がされるところだって、松嶋菜々子にそれ以上はさせられないのか、オリジナルの島田陽子が脱がされる場面よりも激しさがないようにも思えた(そんなとこに目がいくのはやっぱり男の性(さが)なのか・・・)。松子を演じた富司純子は、オリジナルの高峰三枝子の貫禄には程遠いけど、殺害に走らざるを得なかった母親の感情が見事に演じられている。観ていて共感しやすいのはこちらだろう。深キョンは意外とよかったし、奥菜恵と松坂慶子が愛する者の死を境に崩れていく様は特に印象的だ。リメイクにはリメイクのよさがある。市川崑監督の演出と愛すべき金田一耕助を、最高の形で再び僕らに示してくれた製作陣に感謝。