
■「ウェイトレス~おいしい人生のつくり方/Waitress」(2006年・アメリカ)
監督=エイドリアン・シェリー
主演=ケリー・ラッセル ネイサン・フィリオン シェリル・ハインズ エイドリアン・シェリー
これ程に人生を前向きに考えられて穏やかな気持ちにさせられた映画って、最近なかったよなぁ・・。素直にそう思えた映画。ヒロインである主人公は街のダイナーに勤めるパイづくりの名人。私生活では、暴君のような夫から逃れたいと考え、密かに逃げる計画もしていた。ところが妊娠してしまい、逃亡の計画は破綻。嫌な夫の子だけに喜ぶこともできない。そんなとき、産婦人科医の男性と彼女は恋におちる・・。真面目に描いたらこれ以上ドロドロはなかろうと思えるシチュエーション。ところが、話が進展するにつれて僕は幸せな気持ちに包まれていた。
産婦人科医との恋模様は実に面白い。診察室で抱き合う姿には思わず笑ってしまう。彼の優しさと優柔不断さが、夫とは対照的。印象的なのは、「パイづくりを教えてくれ」と彼女の家に訪れる場面。キッチンで一緒に時間を過ごすとても素敵な場面。この場面で”体をまさぐられることなしに、抱きしめられること”の嬉しさをヒロインが語る。そういう気持ち・・・大事だよなぁ。男はなかなかそれを実践できないけれど。店の客で嫌われ者の老人(実はオーナー)を演じたアンディ・グリフィスが、主人公を見守る視線がなんとも温かい。何でも話し合える同僚ですら理解してもらえなかったことを、彼が見事にフォローしている。ラストの展開はそうくるかな・・と予想はしていたが、「友人」として大切に思える存在だと”告白”するところは、思わず泣きそうになる。
この映画は人間味が溢れている。それは監督と同僚ドーンを演じたエイドリアン・シェリーの功績だ。才能を高く評価されていた彼女は、惜しくもこの映画が遺作となってしまった。ラストに登場する子役ルルは監督の娘。そして、劇中ケリー・ラッセルが母親が歌っていた曲、として口ずさむ子守歌のような曲。
"Baby, Don't Cry. Gonna Make A Pie~ ♪"
エンドクレジットでもやさしく流れるこの曲は監督の作詞によるもの。愛を感じるよね。エイドリアン・シェリー自身は亡くなってしまうけど、この映画はきっと多くの人の胸に残ることだろう。
主役を演じたケリー・ラッセルは、TVシリーズで人気が出た女優さん。明るいキャラクターが好感だ。映画好きの友人が、「「キャンディ・キャンディ」を映画化するなら、キャンディ役をやらせたい女優さん。」と評していたが、それも理解できる。最近は「M:I:lll」でトム・クルーズの後輩スパイを演じていたね。