Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

インビクタス 負けざる者たち

2010-02-12 | 映画(あ行)

■「インビクタス 負けざる者たち/Invictus」(2009年・アメリカ)
監督=クリント・イーストウッド
主演=モーガン・フリーマン マット・デイモン トニー・キゴロギ

 映画で知る異国の現実。それは僕らを驚かせ、僕らの視野や世界を広げてくれる。こういう感動に出会えたとき、僕は映画を観続けてきてよかった、と心底思う。今年サッカーワールドカップ開催国である南アフリカについて、僕らはアパルトヘイト、金やダイヤモンドの産出国であることくらいしか習わない。初の黒人大統領であるネルソン・マンデラ氏のことは知っていてもこの映画で描かれたような苦労を経て国を治めてきたことは知るよしもなかった。30年もの間獄中にいたにかかわらず、それでも白人に対する復讐心や葛藤を抑えて赦せる気持ちをもてる。それは想像もできないくらいすごいことだ。赦すことが世界を変える。そんなマンデラ氏のスピリットや祖国への思い、そして不屈の心に僕は感動した。ハリウッド映画が異国の題材を描くとき、それは時として過剰に美化されたりするものだが、この映画にはクリント・イーストウッド監督敬意がひしひしと感じられ、単なる感動作に終わらない。

 アパルトヘイト政策がなくなった後とはいえ、国中には憎悪があった。白人が好むものを嫌う黒人たち。ラグビー代表チームもアパルトヘイト時代の悪しきものの象徴とされた。チーム名やユニフォームを変えようとする黒人たちに、マンデラ氏は一人反論する。少数派となった白人が”黒人はすべてを奪い去る怖い存在”と思ったら国が破綻してしまう。少数派の意見も尊重する姿勢。素晴らしい。そして、アパルトヘイトで知られる恥ずべき状況があるだけに、対外的に何よりも「誇れるもの」を国民は求めている。ラグビーワールドカップで自国チームが活躍すれば世界中が南アフリカに注目し、誇りを得ることができる。その信念を貫こうとすマンデラ氏の姿勢を周りが少しずつ理解し始める。無理解や不寛容が人と人の溝を深める。互いを理解しようとするコミュニケーションでこそ、人は変わることができる。もうラストは涙があふれてくる。

 クリント・イーストウッドが監督の映画はとにかく説得力がある。テーマがいい、役者がいい、それはもちろんだが、何よりも映像が雄弁なのだ。例えばマンデラ大統領初登庁の場面。黒人が大統領になったことで職場を去ろうとする職員がいる。多分他の監督ならグチる職員の台詞や空席になったデスクを大統領が見る場面を入れて説明くさいものにしただろう。だがイーストウッド監督は違う。警備二人を連れた大統領が、執務室に向かうのに、箱を抱えた白人職員が黙ってすれ違うのを正面から撮るだけ。何の台詞もなしに、大統領が置かれた状況を一気に見せてしまう。冒頭、道路をはさんで、ラグビーをする白人とサッカーをする黒人を見せるのも実に象徴的で、この後人種を超えた融和へ一歩進むこととの対比が見事。ド派手な打ち上げ花火ばかりの現代ハリウッドで、きちんと敬意をもって懸命に生きる人間を見つめるイーストウッド監督。良作を次々世に送り出しているその仕事ぶりは、語るべき物語を一つでもこの世に残したいという気持ちに思えてならない。こういう実話が人々の心を打つ限り、まだまだ世の中捨てたもんじゃない。僕は映画みせてレポートを出させる授業を通じて、これまでも学生にいろいろ考えさせてきた(こちら)。もし今後もやらせてもらえるならば、僕はきっとまずこの映画を候補に挙げるだろう。

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コメント (4)
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