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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

縞模様のパジャマの少年

2010-09-01 | 映画(さ行)

■「縞模様のパジャマの少年/The Boy In The Striped Pyajamas」(2008年・イギリス=アメリカ)

監督=マーク・ハーマン
主演=エイサ・バターフィールド ジャック・スキャンロン デヴィッド・シュリース ヴェラ・ファーミガ

 ホロコーストを描いた映画にもいろいろある。ドキュメンタリーの「夜と霧」、「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」のように正面から見据えたものがどうしても思い出されるが、民間人の目線で描いたものには深く心に刻まれるものが多い。特に子供が主人公のものはなおさらだ。ルイ・マル監督の「さよなら子供たち」はその代表で、戦争がいかに人と人を引き裂くものなのかを少年の眼で映し出していた。「さよなら子供たち」に出てくる少年は、もう世の中の現実をきちんと理解できる年頃。この「縞模様のパジャマの少年」は冒険物語に夢中な8歳の少年が主人公。世の中のことがよくわからない。その無垢な心が引き起こす悲劇が、戦争とユダヤ人迫害がいかに悲惨なものかを強烈に観ている我々に突きつけてくる。

 そもそもこの原作は児童文学として書かれたものだそうだ。アメリカ資本が入って製作されているだけに、監督は原作にある衝撃的な結末を変えないことを約束した上で製作に入ったらしい。若い世代にこそこの映画を観て欲しい。鉄条網を挟んで向かい合うドイツ人の少年とユダヤ人の少年。ポスターにも使われているこの構図が、この映画をまさに象徴しているし、多くの人にテーマを理解されることにつながるだろう。

 原作にはない数々の工夫が施されている。ユダヤ人捕虜収容所が保養施設のように快適なところだと訴えるプロパガンダ映画を観る場面はその一つだ。世間の多くの人々はナチス政権になびき、その方針に反対する人々は粛正されるような時代。12歳の姉は家庭教師の偏った指導や兵士の言葉に簡単になびいていく。主人公の少年が世間を知らないだけに、いや純粋なだけに、彼が思う「何故?」が心に突き刺さるのだ。少年が収容所に入り込むクライマックス。ガス室に送られ大人たちに紛れ込んでしまう。誰もいなくなった部屋に衣服だけが残される物言わぬラストシーン。本当に説得力がある映画は映像で語ることができる。この無言のラストはまさにそれだ。僕は高校時代にアウシュビッツの現実を綴った「夜と霧」を宿題で読んだことがある。あまりにも重い現実にページをめくるのがとても辛かった。そこまででなくともこの映画はホロコーストの悲惨さ、戦争がいかに人間を偏らせてしまうのかを知る上で、きっとよい役割を果たしてくれる。何度も観たい題材の映画ではない。でもこの時代に観ておくべき映画だ。多くの人に観て欲しい。僕がやっていた映画授業という取り組み。似たようなことをやってる人がいれば、是非この映画をセレクトして欲しいな。

 難を言えば、全編英語であるせいか違和感を感ずるところがある。主人公の父親がナチ親衛隊「SS」昇進を祝う自宅のパーティ場面。バンドが軽快なジャズ(?)を演奏しているのがどうもピンとこなかった。 「ラインの護り」とか軍歌でも歌っていそうなイメージ(「カサブランカ」)があるだけに、ドイツらしさを感じられない。せめてそこだけでもステレオタイプの描き方をして欲しかったなぁ。



コメント (2)
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