■「借りぐらしのアリエッティ」(2010年・日本)
監督=米林宏昌
声の出演=志田未来 神木隆之介 大竹しのぶ 竹下景子
宮崎駿監督が企画・脚本のみで、監督としては後進に道を譲ることとなったスタジオジブリの新作。メアリー・ノートンの児童文学「床下の小人たち」を、舞台を日本に変更したもの。公開されてから、初期ジブリ作品が好きな人向け・・・との評があったが、それはそれでわかる気がする。映画の冒頭、植物を拾って来ては部屋に飾るアリエッティの行動や勝気な性格に、ナウシカを重ねてしまう人もきっと多かったことだろう。
物語は心臓手術を控えた人間の男の子とアリエッティを中心に進んでいく。NHKで放送された製作の舞台裏を追ったドキュメント番組を見てから、僕は映画館に行った。恋物語の要素を加えたのは米林監督(マロさん)のこだわりだった。米林監督はアニメーターとして実績のある人。監督としてはまだまだこれからかもしれないが、番組を見たうえで映画を観ると彼が付け加えた(書き加えた)”芝居”の部分は、確かにうまいなと思う。初めての「借り」に出かける主人公のわくわくした気持ちや、少年に声をかけられたときの反応には、心の動きがうまく表現されている。ジブリアニメは観ているこっち側の心にも響く。それはこうした細かな部分に手を抜かないからなんだろう。
借りぐらしをする小人たちは人間に見つかってはいけないという掟がある。その一方で、その家に住むおばあちゃんや少年ははまだ見ぬ小人に愛情を感じている。そのすれ違い。結局、小人のためにドールハウスまで作った人間側の思いが成就することはない。そこが世の中の厳しさ、生き方の違いを感じさせて切なくなる。童話ならば、みんな仲良く暮らしましたとさ・・で終わりそうなところなんだが、共存できない厳しさを描いている。「ポニョ」からジブリを観た幼い子供たちは、ポニョみたいに一緒にくらせばいいのにと思うかもしれない。でもそれぞれの民族の生き方やアイデンティティを大切にすることこが、お互いを思うこと。一方的な論理で相手の幸せを考えてはいけない、というメッセージも映画には込められている。「滅びゆく種族」という言葉でアリエッティを怒らせてしまう少年。たとえ小人たち種族に厳しい運命が待っていたとしても、彼らには彼らの生き方がある。ドキュメントで、宮崎監督が「愛玩動物になってはいけない」と演出にコメントする場面があったが、その根底にはそういう思いがあったはずだ。ラストの別れの場面はなかなか切なくっていい。
家政婦のおばさんの好奇心からトラブルが発生。そこからの小さな冒険がこの映画のみどころの一つだろう。残念なのは、拾ったまちばりが武器?として活躍する場面もないし、小人たちのサイズでの生活をもっと細かいところまで見たかったことかな。ポットから注がれる水が水滴だったり、バッグの中におべんとうに使う醤油入れらしきものが見えたりするのも面白い。映画としてのスケール感がやや乏しいからか、アリエッティの成長物語としての物足りなさがあるけれど、ジブリアニメのスピリットはうまく引き継がれていくのではないかな、と感じた。先日、今後もジブリは2Dで行くとのニュースが流れた。3D映画がブームではあるがアニメはやはり”絵”だもの。そこは貫いて欲しい。
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原作買ったけど、まだ読んでないなぁ。
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耳にのこる素敵な主題歌でした。BGMに歌が多かったのがやや気になりましたが。