■「愛を読むひと/The Reader」(2008年・アメリカ=ドイツ)
監督=スティーブン・ダルドリー
主演=ケイト・ウィンスレット レイフ・ファインズ デヴィッド・クロス レナ・オリン ブルーノ・ガンツ
●2008年アカデミー賞 主演女優賞
●2008年ゴールデングローブ賞 助演女優賞
●2008年英国アカデミー賞 主演女優賞
●2009年ヨーロッパ映画賞 女優賞
※注・結末に触れています
ケイト・ウィンスレットがオスカー受賞した作品くらいしか予備知識をもたずに鑑賞。「おもいでの夏」みたいな(古っ!)ひと夏の恋の物語だろうと思っていたのだが、それは見事にいい意味で裏切られた。物語の前半(いや3分の1くらいか)は、15歳のマイケルがふとしたことで知り合った女性から性のてほどきを受けるお話。どすこいボディのケイト・ウィンスレットだが、ハリウッド女優のように作り込んだ裸でないだけに、彼女が演ずるハンナが背負った宿命と人生に疲れた様子が伝わってくるようだ。そういう意味ではニコール・キッドマンが降板したのは正解だったかもしれない。逆にニコールだったらここまでのからみは演じなかっただろう。ハンナはマイケルに本を朗読してもらうことを好んだ。ホメロスからチェーホフまで彼は様々な本を読み聞かせる。何故朗読を聴きたがるのか、彼女には秘密があった。ハンナは路面電車で働いている。勤務成績がよいことから事務職に異動することを上司に告げられるのだが、それをきっかけにハンナは街から姿を消す。マイケルはひと夏の恋で大人になりました・・・というのが前半のお話。
法学生となったマイケルは傍聴に訪れた裁判でハンナを見つける。なんと彼女はアウシュビッツで看守として働いていたことで裁かれる立場であった。これまでホロコーストを扱った映画は、殺した側のナチスと殺された側のユダヤ人、その両極からみた視点しか描かれてこなかったように思う。ハンナはガス室送りになるユダヤ人を選ぶ立場にあったこと、また「私は職務に従っただけ」という言葉から有罪とされてしまうのだ。しかも筆跡を見るために署名を求められたことから、ハンナは秘密を知られたくないためにその罪を被ることを選ぶ。彼女は字を読み書きできなかった。そこまで恥ずべきことなのかという意見もあるだろうが、それはその人その人の価値観や考えなのだから。
大人になったマイケルをレイフ・ファインズが演じている。抑えた演技で主人公の複雑な心境を表現している。それにしても思うのは人が口にした言葉がいかに人を喜ばせたり落胆させたりするかだ。出所を前にして再会を果たすマイケルとハンナ。マイケルが彼女に語りかけたのは、若い日の思い出ではなく、ハンナに贈ったテープに吹き込んだ本の話でもなく、ホロコーストについてだった。それだけ、マイケルがハンナに対して抱く個人的感情と彼女が罪人であることでの葛藤があってのことなのだろうが、既に刑を受けて出所を赦されようとしている彼女に対して「罪の意識はあったのか・・・」なんて・・・そんなひどい質問を何故してしまったのだろう。そしてハンナがどれだけ落胆したか。人生は残酷だ。
映画のクライマックス、書物に触れることで文字を覚えて生き生きとしていくハンナ。老け役を歩き方や姿勢でうまく演じているが、それ以上に世界が広がることへのわくわくする気持ちが見事に表現されているいい場面だ。スティーブン・ダルドリー監督はあの「リトルダンサー」を撮った人物。ハンナの高揚感は過去の作品に通じるところかも。法学部の教授役はブルーノ・ガンツというのが映画ファンとしてはまた嬉しい。かつてヒトラーを演じ、一方で天使を演じた役者。最後に登場するレナ・オリンも印象的。
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