■「コクリコ坂から」(2011年・日本)
監督=宮崎吾朗
声の出演=長澤まさみ 岡田准一 竹下景子 石田ゆり子 風吹ジュン
ハリウッド製ファンタジー映画が巷を賑わす昨今。非現実的な世界へ連れて行ってくれるSFXは確かにすごいんだろう。僕ら世代も80年代SF映画にキャアキャア言いながら大人になった。でも、高校生の頃だったかな。俺たち、テクノロジーのすごさを観るために映画館に行ってるのかな?ってふと思った。それなら、遊園地なんかにある3Dシアターみたいな見世物小屋に行くのと同じ。映画を観るって、劇場でわざわざ人生の貴重な2時間を費やすって他に意味があるんじゃないんだろうか。そう考えるようになっていった。一方で同じ時期にアニメ好きにもなってしまった僕は、劇場映画としての面白さとアニメでしかなし得ないことが共存するジブリ作品が大好き。しかもそれは単なるエンタメではなくて、忘れていたものを思い出させてくれる魅力をもつ。今さら語ることではないけれど。これまでのジブリのファンタジー作品の数々は誰にも真似できない世界だった。
この夏も、巷にはファンタジーと名のつくSFX満載の映像作品が溢れかえっている。ジブリが今年用意してくれた「コクリコ坂から」は、80年代に少女マンガ雑誌「なかよし」(懐・・・「キャンディキャンディ」連載時期はよく読んだもんです)で連載されたコミックが原作。東京オリンピック直前の1960年代を舞台としている。海を見下ろす高台にあるコクリコ荘は女性だらけの下宿屋。仕事で家にいない母親に代わって切り盛りする女子高生が、この物語の主人公、海。彼女が通う高校では、老朽化した文化部部室棟、通称カルチェラタンの取り壊しをめぐって意見が二分していた。海は新聞部の部長に恋をすることになる。しかし、二人には出生の秘密が・・・。恋のゆくえ、二人の関係は・・・。
出生の秘密のエピソードは、70年代の「赤い」シリーズを思い出させて「古っ!」と内心思った。出生の秘密を知る場面は、深刻な話題だけに言葉が詰まりがちになりそうなところだが、意外にも次々に会話が続く。これは、吉永小百合が活躍していた頃の往年の青春映画を参考に観て、吾郎監督が取り入れた演出なんだとか。こういうストーリーを映像化するなら実写でもいいのでは・・・という評はあちこちで見られる。しかし、今はない街の様や人々の様子を描くには、手書きのアニメだからこそ温かみが感じられたとも思うのだ。技術で作り込まれた実写もいいかもしれないが、「コクリコ坂から」が狙ったのはノスタルジーという名のファンタジー。公開二日目に訪れた劇場には中高年がとても多かった。普段アニメを観ているとは到底思えない世代もいらっしゃった。若い子にとっては、今どきこんな恋はしないと思っちゃうだろう。でも、「コクリコ坂から」は、すべての人を現代とは違う時代に連れて行ってくれて、こんな恋もアリかもしれないと思わせてくれるかも。これも立派なファンタジーなんではないだろか。
路面電車の電停の場面、海ちゃんの懸命の告白には思わず胸キュン・・・(死語)。男子の巣窟として描かれるカルチェラタンの様子は、まるでワンダーランド!文化部万歳っ!とちょっと嬉しく思う。
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