Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

風が強く吹いている

2011-10-08 | 映画(か行)

■「風が強く吹いている」(2009年・日本)

監督=大森寿美男
主演=小出恵介 林遣都 中村優一 ダンテ・カーヴァー

●2010年ヨコハマ映画祭 新人監督賞・審査員特別賞

いきなりなんだけど、テレビで駅伝やらマラソンの中継見るのが僕は好きじゃない。人が走るだけで変化がない画面を2時間見続けるのは、子供心にはとても退屈だった。こんなの見るんなら他のもん見たらいいのに・・・そう思いながら、父親が見るマラソン中継や駅伝中継を眺めていた。それは自分がスポーツ得意ではないし、陸上競技に興味がなかったのもある。一方で、僕は小学校の頃から長距離を走らせるとそれなりに頑張れるタイプだったんだけどね。

「風が強く吹いている」は、わが街北九州でもおおがかりなロケが行われた映画。スポ魂嫌いなので敬遠していたのだけれど、やっと観る気になった。いやはや、これはいい映画じゃない。暑苦しいど根性ものではなく、成長物語としての感動もあるし、仲間と一緒に走り抜くことの喜びや思いを貫くことの大切さを教えてくれる。

あれ程駅伝をテレビで見るのを嫌っていたくせに、ラスト30分は完全に見入ってたもんね。それは画面の中で走ってる一人一人の背景や思いを知って見ているから。当たり前のことだけど、物事の上っ面だけ見ていれば、それは人が移動するのを画面で見ているだけ。予備知識皆無でスポーツ中継を見るよりも、ニュース番組の特集やらドキュメントやらで知識を得ると、単なる中継が感動を呼ぶものに変わっていきますよね。映画もそれと同じ。駅伝で若人が走るだけの場面であっても、そこまでの描かれ方で彼らの気持ちに観る側が共感できていれば、傍目から見れば単なる移動場面もそれは名場面に変わる。例えば「私をスキーに連れてって」のクライマックス難所とされる山を主人公二人がスキーで走破を挑む場面。あれは単なる移動でありながら、その行為に目的や使命があったから手に汗握る名場面となった。「運動靴と赤い金魚」の少年がマラソンに挑むクライマックスで涙するのも、走る目的を僕らが知っているからだ。だがそれはその場面にたどりつくまでのストーリーテリングに納得がいっているが重要なこと。

「風が強く吹いている」は、部員ギリギリでろくに長距離の経験もないメンバーだらけの中、箱根駅伝出場を果たす物語。主人公カケルが言うように「そんなに甘いもんじゃありません!」と叫びたくなる人もいることだろう。そういう人は自分の経験に基づいて「違う」と言っているのだから、それを僕らは否定できない。だが、この映画がその点を突いて批判されず、むしろ世間では評価されているのは、2本の軸があるから。カケルとハイジという陸上経験者とそのアツい思いが物語の主軸。そしてダメ男たちが頑張る物語がもうひとつの軸。この映画はそのバランスが絶妙なのだ。
「マンガと同じように走ること好きになればいいじゃないですか。」
名言だ。この台詞を言われる側の王子君(仮面ライダーゼロノスだよね・・・)の頑張りはおそらく経験者には「うっそー」なんだろうけど、カケルやハイジが彼に言う言葉ひとつひとつに共感できるものがあるから、陸上経験者も許せる映画になっているのでは。カケルを演じる林遣都君の走るフォームは素人目にもかっこいい!と思えるし、運動神経のいい彼をキャスティングしたことも功を奏しているのだろう。このバランスが悪ければ、不出来な「クール・ランニング」(秀作でしたね)みたいに言われていたことだろう。

それにしても、初監督作でこれほど大がかりな撮影をこなした大森寿美男監督はいい仕事だと思う。地元ロケであることを意識するとついつい背景が気になってしかたない。小出恵介はさわやかな役柄で株を上げたね。




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