■「チルソクの夏」(2003年・日本)
監督=佐々部清
主演=水谷妃里 上野樹里 桂亜沙美 三村恭代 山本譲二
下関市はロケ地実績のある場所。地元出身の佐々部清監督作「チルソクの夏」は、下関フィルムコミッションが撮影支援した最初の作品にして、下関地区での観客動員記録を塗り替えた作品でもある。
釜山と姉妹都市である下関は、陸上競技会を共同で毎年開催していた。1977年夏の大会で、長府高校陸上部の郁子は韓国の高校生アンと出会う。戒厳令下にもかかわらず宿舎まで会いに来たアンと郁子は、翌年の夏にまた競技会で会う約束を交わす。1年に1度しか会えない織姫と彦星みたいに。しかし、今ほど韓国に対して友好的なムードでなかった70年代。アンと郁子の文通に周囲の大人達はいい顔をせず、父親からは頭ごなしに「朝鮮人と付き合うな」と怒鳴りつけられる。それはアンにとっても同じ。戦争が二つの国に大きな溝となっている中、二人の淡い恋心は折れてしまいそうに・・・。そして翌年の七夕がやってくる・・・。
佐々部監督の経験も脚本にかなり盛り込まれているそうで、偏見を持った大人達の言動には生々しさが感じられる。韓国側にも日本文化には厳しい規制があった時代。韓流ブームと言われてしばらく経つ現在と比較すると、これ程違うのかと改めて思う。映画のクライマックスである一夜のデート場面。関門トンネルの県境を38度線に例えてアン君が祖国を語る場面は印象的だ。そうした政治的な状況を色濃く描きながらも、中心はあくまでも4人の女子高生の青春物語。実際に走れるキャスティングにしたかったという監督の意向もあって、キャスティングもやや地味な印象。準主役の上野樹里はこの後ブレイクするだけあって他の子とは印象が違う。だが主役の水谷妃里にしても他の2人にしても等身大の演技で、観ていてとても自然に見える。毎朝新聞配達をして、神社に向かって手を合わせる彼女はその風景にいることがとても自然だ。若手スタアをキャスティングしていたらこういう絵は撮れなかっただろう。
また、その時代を表現するために70年代のヒット曲が散りばめられているのも嬉しい。「あんたのバラード」が流れてたり、真夜中のベランダで4人が「横須賀ストーリー」を歌ったり。郁子とアンが同じ時間にお互いの国に向かって空を見るという場面だから、♪これっきりーですかー って歌詞が縁起が悪いと言うのが面白い。そして再会した陸上競技会での交流会でアンが歌う「なごり雪」が泣かせる。日本のラジオを聴いて覚えた曲をみんなの前でアカペラで歌う。しかし韓国の教師に「日本の歌は禁止だろう!」と制止されてしまう。「なごり雪」はエンドクレジットでも流れるのだが、ただでさえ泣かせる歌詞がいっそう心に響く。アン君は「去年よりずっと綺麗になった」って郁子に伝えたかったんだろう。「おっぱいバレー」も70年代のヒット曲を上手に使っていたけど、この映画での音楽は人と人のつながりをより強くするものとして使われていて感動的だ。それはカラオケの普及に負けて流しの仕事を追われてしまう郁子の父親(山本譲二が好演)にも反映されている。静かな余韻を残す5番ゲートで再会するラストシーンがいいね。思い出は美しいもの。そして、その背景である下関の風景も美しい。
監督=佐々部清
主演=水谷妃里 上野樹里 桂亜沙美 三村恭代 山本譲二
下関市はロケ地実績のある場所。地元出身の佐々部清監督作「チルソクの夏」は、下関フィルムコミッションが撮影支援した最初の作品にして、下関地区での観客動員記録を塗り替えた作品でもある。
釜山と姉妹都市である下関は、陸上競技会を共同で毎年開催していた。1977年夏の大会で、長府高校陸上部の郁子は韓国の高校生アンと出会う。戒厳令下にもかかわらず宿舎まで会いに来たアンと郁子は、翌年の夏にまた競技会で会う約束を交わす。1年に1度しか会えない織姫と彦星みたいに。しかし、今ほど韓国に対して友好的なムードでなかった70年代。アンと郁子の文通に周囲の大人達はいい顔をせず、父親からは頭ごなしに「朝鮮人と付き合うな」と怒鳴りつけられる。それはアンにとっても同じ。戦争が二つの国に大きな溝となっている中、二人の淡い恋心は折れてしまいそうに・・・。そして翌年の七夕がやってくる・・・。
佐々部監督の経験も脚本にかなり盛り込まれているそうで、偏見を持った大人達の言動には生々しさが感じられる。韓国側にも日本文化には厳しい規制があった時代。韓流ブームと言われてしばらく経つ現在と比較すると、これ程違うのかと改めて思う。映画のクライマックスである一夜のデート場面。関門トンネルの県境を38度線に例えてアン君が祖国を語る場面は印象的だ。そうした政治的な状況を色濃く描きながらも、中心はあくまでも4人の女子高生の青春物語。実際に走れるキャスティングにしたかったという監督の意向もあって、キャスティングもやや地味な印象。準主役の上野樹里はこの後ブレイクするだけあって他の子とは印象が違う。だが主役の水谷妃里にしても他の2人にしても等身大の演技で、観ていてとても自然に見える。毎朝新聞配達をして、神社に向かって手を合わせる彼女はその風景にいることがとても自然だ。若手スタアをキャスティングしていたらこういう絵は撮れなかっただろう。
また、その時代を表現するために70年代のヒット曲が散りばめられているのも嬉しい。「あんたのバラード」が流れてたり、真夜中のベランダで4人が「横須賀ストーリー」を歌ったり。郁子とアンが同じ時間にお互いの国に向かって空を見るという場面だから、♪これっきりーですかー って歌詞が縁起が悪いと言うのが面白い。そして再会した陸上競技会での交流会でアンが歌う「なごり雪」が泣かせる。日本のラジオを聴いて覚えた曲をみんなの前でアカペラで歌う。しかし韓国の教師に「日本の歌は禁止だろう!」と制止されてしまう。「なごり雪」はエンドクレジットでも流れるのだが、ただでさえ泣かせる歌詞がいっそう心に響く。アン君は「去年よりずっと綺麗になった」って郁子に伝えたかったんだろう。「おっぱいバレー」も70年代のヒット曲を上手に使っていたけど、この映画での音楽は人と人のつながりをより強くするものとして使われていて感動的だ。それはカラオケの普及に負けて流しの仕事を追われてしまう郁子の父親(山本譲二が好演)にも反映されている。静かな余韻を残す5番ゲートで再会するラストシーンがいいね。思い出は美しいもの。そして、その背景である下関の風景も美しい。