■「永遠の僕たち/Restless」(2011年・アメリカ)
監督=ガス・ヴァン・サント
主演=ヘンリー・ホッパー ミア・ワシコウスカ 加瀬亮
死に取り憑かれた青年と余命わずかな少女との出会いと別れを描いたガス・ヴァン・サント監督の新作。正直ノーマークだっただけにこういう映画と出会えて感激するのは嬉しい誤算。透明感のある映像とそれを彩る音楽、主人公イーノックの繊細さと成長物語、相手役アナベルの死を目前にしながら前向きな姿。二人を見守る日本兵の幽霊。普通の難病ものとも違う、恋愛映画とも違う今まで観たことのないファンタジー。そして爽やかなラストシーンに心揺さぶられる。90分の上映時間で、僕らは人を愛すること、生と死について考えさせられる。こんな映画はめったにない。
他人の葬儀に参加することを繰り返す青年イーノック(ヘンリー・ホッパー)。実に不謹慎な遊びなのだが、それには理由があった。彼は両親を交通事故で失い、彼自身も同じ事故で臨死体験をしたことがある。両親の葬儀は彼が昏睡状態の間に執り行われた為に、両親の死を受け入れながらも、心の中では愛する人に別れを告げられなかった無念さがある。彼には日本兵の幽霊の友達ヒロシがいる。彼以外にはその存在は見えない。まさに死に取り憑かれている。そんなイーノックがある葬儀で出会った少女アナベル(ミア・ワシコウスカ)。葬祭場の職員に縁もない葬儀に参列することを咎められたイーノックは、彼女の機転で救われる。彼女は余命3ヶ月であることをある日彼に打ち明ける。お互いにとって欠くことのできない存在になっていく。
積み重ねられていくエピソードはまるで詩を幾編も読んでいるように、不思議な余韻を残してくれる。素敵な場面がいくつもある映画だ。映画の冒頭、殺害現場の死体のように路上に自分の輪郭を書くイーノック。そこにビートルズのTwo Of Usが流れた瞬間に僕は「あ、この映画に惚れる!」と直感的に思った。アナベルが描く昆虫のスケッチ。生あるものを書き残すことに取り憑かれたようにも見えるそのスケッチ。「僕の両親に会う?」とアナベルをお墓の前に連れて行き、地面の下で眠る両親に彼女を紹介する。アナベルが余命を告白する場面でも、イーノックが返す言葉は「3ヶ月あればシロフォンの名手になれる」だもの。そこには、他の難病もの映画にありがちな死を前にしたもの悲しいムードはない。しかし、仲良くなった二人の行動は必ず死が隣り合うもの。いい年齢して小さな子供に交じってハロウィンの仮装をするのも、死体安置所でデートするのも、死の場面をシナリオ書いて演じてみるのも、普通に考えればおかしいし不謹慎な行動だ。でもそんなちょっと変わった二人の恋物語は、とてもすがすがしい。厳しい現実を前にしても決してめそめそせず、好きな野鳥のように今生きていることを嬉しく思うアナベルの姿に、僕らはとても勇気づけられる。そして彼女の死に向かい合うことでイーノックは成長する。ラストシーンの笑顔は、台詞を聞かずともすべてを集約したような笑顔。加瀬亮扮する幽霊は観る前どうなの?と不思議に思っていたが、愛する人を残して世を去るアナベルの気持ちを代弁する役どころで好印象。映画館を出るとき、とても優しい気持ちになれる映画。