■「ロング・エンゲージメント/Un long dimanche de fiançailles」(2004年・仏)
●2004年セザール賞 助演女優賞・有望若手男優賞・撮影賞・衣装デザイン賞・美術賞
●2004年シカゴ映画批評家協会賞 外国語映画賞
監督=ジャン・ピエール・ジュネ
主演=オドレイ・トトゥ ギャスパー・ウリエル ドミニク・ピノン マリオン・コティヤール
ジャン・ピエール・ジュネ監督がずっと暖めていたという題材である本作。婚約者の生存を固く信じ続けるオドレイ・トトゥを主人公にしているので、「アメリ」のあのファンタジックな世界を期待した人もいるだろう。しかし本作は、戦争の醜さ・無意味さとそれに翻弄される人々の姿を見事に描ききったよりハードな映画である。でもそこに描かれる人間関係は他のどんな映画よりも温かい。
ジュネ監督ゆかりの俳優たちの個性あるキャラクターは、ここでも健在。特にオドレイ・トトゥ演ずるマチルドは「アメリ」同様コミカルで変わっていてチャーミング。「夕食前に犬が入ってきたら彼は生きている」などと”おまじない”をかけるのは、同じような経験ないですか?ここでは信じ続ける強さをも演じていて実に素晴らしい。脇役で登場するジョディ・フォスターも、戦争に運命を狂わされながらも懸命に生きる女を演じていて印象的だ。信じて追うよりも関係者を殺す道を選んだマリオン・コティヤール扮する女性が、獄中で涙する場面も好きだ。砂利を蹴散らす郵便配達まで愛すべきキャラばかり。この辺りは「アメリ」を彷彿とされるところだ。戦場で何が起ったのかをめぐるミステリーが物語の主軸となっている。服装も同じで泥まみれの男たちを延々追い続ける観客はちょっと混乱することだろう。僕も途中でわからなくなったけれど、そこはそれで流して観るのがよいだろう。わからないなりに、マチルドと一緒に新事実にドギマギする方が映画としては楽しめるはず。要するに結末にきっと感動するはずだから。
フランス映画の魅力は人間を見つめる視線にあると常々思う。それはエンターテイメントに徹した映画とは全く異なるものだ。それ故に地味な印象の映画でも魂を揺さぶられるような経験をすることがある。しかしこれまでのジュネ監督の作風はそれとは違っていた。むしろSFX技術を使って自分の世界を作り出すことに重きがおかれていた。「デリカテッセン」のブラックユーモアや「ロストチルドレン」の空想世界。ときにノスタルジックでグロテスクな映像世界に僕は夢中になった。ハリウッドに招かれて撮った「エイリアン4」も自分の色はしかっりと残されていた。「アメリ」はジュネ監督の世界を表現する場を外に求めた作品であった。これまで彼の映画を彩ってきたSFXはファンタジックなものに姿を変え、単なる見せ物としての技術ではないことを示してくれた。ところが本作はこれらとは違う。一見これまでの映像美をさらに発展させて納得のいくジュネ映画になっている。だが、ここで描かれる戦争という厳しい現実とその時代の中で懸命に生きている人々の温かさ。フランス映画を観た後に感ずる”人間っていいよなぁ”というあの感覚が宿っているのだ。脇役の1人1人にまで人生を感じさせるような映画。得意のSFXは時代を表現するために使われている。かつて「シンドラーのリスト」を観た後、僕は「空想しか撮らなかったスピルバーグという映画少年が、現実を描ける巨匠となった映画」と鑑賞日記に記したけれど、ジュネにとっての「ロング・エンゲージメント」はまさにそれだと思うのだ。