Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

大統領の料理人

2013-12-01 | 映画(た行)

■「大統領の料理人/Les Saveurs du Palais」(2012年・フランス)

監督=クリスチャン・ヴァンサン
主演=カトリーヌ・フロ ジャン・ドルメッソン イポリット・ジラルド アルチュール・デュポン

 僕の映画友達Mさんは「ゲイが主人公の外国映画と料理がテーマの映画にはハズレがない」が持論だ。Mさんの言われるがままに「ミルク」も観たし、「ジュリー&ジュリア」も観た。僕も「バベットの晩餐会」や「南極料理人」が好きな映画だったから、Mさんの持論は(諸手を挙げてではないけれど)支持できる。食べることは生きていくことでもあるけれど、それをつくることは相手を思うこと。そこには細やかな気配りや繊細な心遣いがある。ゲイが主人公の映画には、大作映画では見られない繊細な心の表現がある。Mさんはそんなふうに"人を思うこと"が好きな人なのかもしれない、と時々思う。そんなMさんと話していてお互い気になる映画として挙げたのはこの「大統領の料理人」だった。

 「大統領の料理人」の主人公オルタンス・ラボリは、田舎町でトリュフを栽培しレストランを営んでいた。"おふくろの味"を求める大統領個人の希望から、推薦されて大統領官邸のキッチンを任されるプライベートシェフとしてエリゼ宮で働くことになる。ミッテラン大統領の時代に実際に2年間務めた女性ダニエル・デルプシュがモデルとなっている。映画は冒頭、フランス領の南極基地で料理をつくるオルタンスの姿を映し出す。エリゼ宮で働く過去と、南極基地で働く現在を映画は交互に見せながら、何故彼女が現在に至るのかを少しずつ示してくれる。映画前半は男性ばかりが働くエリゼ宮の中で、彼女の個性的なやり方が次第に周囲を魅了していく様子が描かれる。それは大統領の心を癒し、家族を喜ばせ、官邸を訪れる人々のお腹と心も満たしていく。しかし、宮廷の中には巨大な主厨房があり、大統領の料理をつくる仕事を奪われた苛立ちや嫉妬から、オルタンスと対立することになっていく。さらに官邸の懐を預かる人物が変わって徹底的なコストカットを要求してきたり、大統領の健康を心配する栄養士たちが料理にあれこれ口を出し始め、オルタンスは次第にやりづらい状況になっていく・・・。現実世界を離れて気分転換しようと観た映画だったけど、コストカットのエピソードで思いっきり現実に引き戻される(笑)。

 古いレシピ本を見たり、理想の食感を出すために試行錯誤するオルタンスと助手ニコラス。二人のまるで親子のような関係が見ていてとても心温まる。大統領の家族パーティの献立をめぐるエピソードは、オルタンスの気遣いと縄張り意識がある対立が絡み合うスリリングな場面。横槍が激しくなっていく中で、大統領がひとりキッチンを訪れてオルタンスを会話する場面がとても好きだ。「最近いじめられているね。私もなんだよ。」ねぎらいの言葉以上に相手を気遣うやりとりにホロリときてしまう。そして映画のクライマックスには、南極基地でオルタンスがいかに慕われていたのかが描かれる。「南極料理人」でも堺雅人が極限状態の隊員をいかに料理で楽しませるかが描かれたが、オルタンスもそう。隊員たちのお腹も心も満たしてくれた彼女に用意された粋なサプライズ。仕事を通じて人に認められることも大切だけど、人に慕われることはもっともっと嬉しいこと。ガブリエル・ヤレドの音楽がとっても心地よい。フランス映画が映し出す人間模様はいつだって素敵な時間をくれる。映画「大統領の料理人」の2時間は心を満たしてくれる"おもてなし"だ。

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コメント (2)
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