■「セッションズ/The Sessions」(2012年・アメリカ)
監督=ベン・リューイン
主演=ジョン・ホークス ヘレン・ハント ウィリアム・H・メイシー ムーン・ブラッドグッド
障害者の性を世間はタブー視しがちだ。実際にパートナーを見つけることが難しいだけでなく、欲望はあってもそれを満足させることもなかなか叶わない。映画の世界で障害者の性が扱われるのは極めて希である。「7月4日に生まれて」で半身不随となったトム・クルーズがセックスできない苦しみを訴える場面は強い印象を残した。イタリア映画の「人生、ここにあり」では、精神病患者が健常者の娘に恋をするエピソードがあり社会の厚い壁の存在が描かれ、また彼らの性欲を満たすために主人公があの手この手の策を巡らす様子がユーモラスに描かれた。しかし障害者の性を真っ正面からテーマとして扱った作品は、この「セッションズ」が初めてだろう。
主人公マークは首から下が動かせず、"鉄の肺"と呼ばれる機械の中で一日の大半を過ごさねば生命が維持できない障害者。ヘルパーの女性に恋をしたが振られてしまう。彼は障害者に性の手ほどきをするセックスサロゲートの女性シェリルと出会う。"セッション"と呼ばれる回数は限られている中、未知の経験への憧憬と恐れからマークは失敗を繰り返す。マークは次第にシェリルに、より親密さを求めるようになる・・・。
この映画を観る前は重いテーマに挑む作品だなと思っていた。実際に観て、その明るく前向きな内容に感動した。決して障害者の性やセックスサロゲートという仕事を物珍しく描くようなことはしない。マークが初めてのセックスを前にして悩んだり、考え込んだりする姿や、シェリルの肌を感じてドキドキする様子。それは誰しもが経験することに他ならない。偏見を持っていた訳ではないにせよ、重いテーマと思っていた時点でどこか特別視していたのではないかと自分を省みた。マークが初めてシェリルに快感を感じさせた最後のセッション。マークが一人の人間としての自信を持ち、生き生きとした表情になっていくが、一方でそれはシェリルとの別れを意味するものでもある。その切なさ。セックスは相手を認め合う行為だという素晴らしさを、改めて考えさせるいい仕事だ。
映画の前向きな印象を高めているのは、マークを取り巻く心温かい人々の存在。ウイリアム・H・メイシー扮する神父の助言、部屋を提供する障害者の女性、後任のヘルパー。シェリルを演じたヘレン・ハントはまさに熱演。その裸身は神々しくさえ感じる。映画の幸せな結末は、この映画を観る前に抱いていた先入観を大きく変えてくれることだろう。セックスは愛する人と人が触れあい、お互いの存在を認め合うこと。そこに健常者も障害者もない。多くの人に観て欲しい秀作だ。こういう映画こそがアメリカ映画の良心。
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