■「舞妓はレディ」(2014年・日本)
監督=周防正行
主演=上白石萌音 長谷川博己 富司純子 田畑智子 草刈民代
ここのところ重たいテーマの作品が続いた周防監督。僕はそれらを全く観ていない。自分にとって周防監督のカラーはやっぱり「シコふんじゃった」であり、「shall we ダンス?」だ。これまでの殻を破る監督の姿勢を否定するものではないけれど、"らしい"作品をまた観たい・・・と思っていた。そこへこの「舞妓はレディ」だ。田舎娘が失敗を繰り返して舞妓になろうとする成長物語。しかもミュージカル仕立て。ストーリーとしては面白そう・・・と感じたがそれでもまだ映画館へ向かわせるのに物足りなかった。公開されてしばらく経って、この映画で作詞を担当したのが種ともこだと知る。誰とも違う楽曲のセンスと発想、アレンジの面白さ。学生時代にやってたバンドでコピーしたこともあり、現在でもずーっと大好きなアーティスト。種ちゃんが作詞なら聴いてみたい・・・それが僕の背中を押した。いざ映画館へ。
舞妓になりたいと老舗のお茶屋にいきなりやって来た田舎娘春子。方言丸出しの彼女を女将は追い返そうとするが、言語学者京野の申し出で、春子が訛りを克服して舞妓になれるか賭けをすることになる。映画ファンならこのあたりでピンとくるはず。オードリー・ヘプバーン主演で映画化されたミュージカル「マイ・フェア・レディ」が物語のベースなのだ。ミュージカルなので、(半ば強引に)歌が挿入されるのだが、それは京ことばのレッスン場面でも同じ。オリジナルでは、イライザが発音を直すために"The rain in Spain stays mainly in the plain."を繰り返し言わされるのだが、「舞妓はレディ」でも"京都の雨はたいがい盆地に降る"とパロディが盛り込まれている。また「マイ・フェア・レディ」舞踏会シーンの印象的なドレスによく似た衣装も登場する。確かに楽しい。しかも「ファンシイダンス」ではお坊さん、「シコふんじゃった」では相撲と一般ピープルが簡単に想像できないライフスタイル、それも日本独自の文化を描いた点では初期の作品群に通ずる楽しさがある。さらに草刈民代が、女将役富司純子の当たり役緋牡丹お竜を彷彿とさせる場面もあり映画ファンをクスリとさせる。
キャスティングの巧さもこの映画の魅力。主役を射止めた上白石萌音が、ストーリーが進むにつれて堂々とした姿になっていくのがとにかく観ていて爽快。また先輩舞妓役の田畑智子が、ここでもまたいい仕事をする。京都出身というアドバンテージもあるだろうが、人手不足から"年増の舞妓"という微妙な立ち位置である不本意さが、ちょっとキツい表情からひしひしと伝わってくる。期待した種ちゃんの作詞も遊び心にあふれていて、いい仕事だった。サントラで聴き直すのもいいかな。
惜しむところは、ミュージカル場面にもう少し和テイストが欲しかったところ・・・と、観終わった直後に思った。しかし、京都のこの奥深い世界を2時間の映画で楽しく語り尽くすことが難しいのと同じように、海外配給のために媚びた演出にする目的でもない限り、ミュージカル場面まで過剰な和テイストに徹する必要はなかったのかな、とも思える。たとえこの映画で描かれた花街の世界が、見る人から見れば表面的なものだったとしても、その楽しさを垣間見るだけでなにが悪い。そもそも"いちげんさん"お断りの世界。それを映画でちょっと見せてくれるだけありがたいもんだ。そういう意味では既に「舞妓Haaaan!!」という先行する作品がある。されど、あれは男性目線がどうしても中心で女性を争奪するバトルをおもしろ可笑しく撮った映画だ(それはそれで面白かったが)。女性目線で「舞妓Haaaan!!」を見れば、芸子とか舞妓という枠に女性をはめて有り難がっている男のエゴが嫌みに感じられるかもしれない。「舞妓はレディ」は、花街の内側にちょっとだけ踏み込んで、僕ら観客を日常と違うところに連れて行ってくれる素敵な映画だ。そしてそれは、周防監督だからできる幸せな結末のように思えてならない。
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