Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

騎士団長殺し

2018-07-18 | 読書


遅ればせながら感想を。
世間では村上春樹ワールドの集大成だの、最高傑作だの言う感想もあれば、
なんで同じ話を書き続けるのか、盛り上がらなくて残念、と賛否両論。
正直なところ、
いつもなら村上作品なら一気に読んじゃう僕でさえ途中でやや萎えて時間がかかった。
それは過去の村上春樹作品と通ずる"既視感"。

多くの人が感じている通り、過去の作品の焼き直し?と思える描写が随所にある。
「ねじまき鳥」みたいに主人公は突然妻が去られてしまい、
「海辺のカフカ」みたいに喧騒から離れた場所に一人で住み、
異世界に通ずる道みたいなものがあり、得体の知れない存在が出てきて、
「トニー滝谷」のようにクローゼットには過去の女性の衣類が詰まっていて、
会話はまたもオウム返し。

もちろん文学の表現として傑出したことを含めて、
旧作をイメージさせる部分を肯定的に捉えるなら集大成になるだろうし、
否定的には捉えるなら同じ話になる。
どちらかと言うと読み始めた頃は僕も後者に近かった。
また身綺麗に一人で暮らす、女に不自由しない男か・・・と
嫉妬にも似た(笑)気持ちにすぐになってしまった。
さらに「夜一人で読んでると怖いのよ」という友達のひと言も影響あったかもww

読み進める中で、これまでの村上春樹作品と決定的に違うことに気づいた。
会話と会話の行間が長いのだ。
気の利いた台詞が多い村上作品だから、
僕は台詞の行は味わうように、間はサラッと読み進めていたように思う。
ところが「騎士団長殺し」はそれを許してくれなかった。
画家である主人公が目で見たものを克明に描写するからだ。
これまでの村上作品なら、「〜のように」と読者のイメージを導いてくれる比喩が多かったが、
「騎士団長殺し」では人物の髪型から服装まで丁寧に描写するので、
読者がどうイメージするかに委ねられているのだ。
気の利いた台詞でテンポよく読者をのせてリードしてくれていたのが、
読み手にイメージさせることで小説が描く世界の深みに誘ってくれているようだ。

もう一つ、大きな変化がある。
村上春樹の作品に共通するのは"喪失感"だと思う。
例えば短編集「女のいない男たち」や「ノルウェイの森」に代表される
男女の片方が欠けている寂しさや、満たされない気持ち。
これまで欠けている存在として「妻」はあっても「子供」は出てこなかった。
短編集「東京奇譚集」に収められた「ハナレイベイ」でサーファーの息子を失う母親が出てくるくらいかな。
「騎士団長殺し」では、自分の子供かもしれない少女に執着する免色氏
(ちょっと「華麗なるギャツビー」を思わせるキャラ)が登場するとともに、
主人公は出て行った妻が他の男との間に子供ができたことで心が乱されている。
救いのない結末になるかと思って読み進めると、これはこれで一応のハッピーエンド(?)にたどり着く。

神出鬼没な騎士団長と、絵画教室の生徒である人妻のキャラが好き。
よくわからない部分や非現実的な部分が解明されないまま終わるけれど、
それはこれまでの作品にもあったことだし。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

コメント
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