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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

セザンヌと過ごした時間

2021-01-19 | 映画(さ行)


◾️「セザンヌと過ごした時間/Cézanne et moi」(2016年・フランス)

監督=ダニエル・トンプソン
主演=ギョーム・カネ ギョーム・ガリエンヌ アリス・ポール デボラ・フランソワ

画家が登場人物の映画に知的好奇心をくすぐられるのは何故だろう。観終わってその画家の作品を改めて観たくなる。画家はどんな思いでキャンバスに向かっていたのだろう、と再び映画のシーンを反芻する。絵画を挟んで映画の鑑賞者たる僕らは、その画家の思いと対峙するのだ。そんな想像をかきたててくれた映画は秀作と呼んでいい。逆に実在の画家が出てくるのに、その作品に触れたいと思わなかったら、その映画はどこか足りないのだろうし、観る人の興味が別のところにあるのだろう。

作家エミール・ゾラと画家ポール・セザンヌの長年に渡る友情の物語。ゾラが画家を主人公にした小説「制作」を書いたことでセザンヌが怒って疎遠になったと言われるが、ダニエル・トンプソンの脚本はその史実の後、セザンヌが再びゾラに会いに行くと言うストーリーになっている。実際にそうした手紙が最近発見されたとか。同じ画家にまつわる映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」でも、死の新説が反映されているように、脚色とはいえより人物に迫る内容になっているのだ。

気性が荒くて人間関係を築くのが苦手なセザンヌと、不器用ながらも小説家としての成功を積み重ねていくゾラ。お互いに言いたいことを言い合ってきた仲なのだが、ゾラはセザンヌの才能に、セザンヌはゾラの成功に、互いに嫉妬がある間柄。そもそも銀行家の息子として裕福な家に生まれたセザンヌ。映画前半では、小鳥を捕まえて食糧にするような貧しい生活をしていたゾラの元に、酒瓶持って女連れで現れるような状況だった。それが、ゾラが成功を納めてからは、親から仕送りを止められ生活費にも困るセザンヌをゾラが支援する様子が描かれる。

お互いを罵るようなやり取りが続く後半では、観ていてキツい場面も続く。芸術家仲間からも避けられる中、セザンヌを認めているゾラの母とのやり取りは印象深い。モデルを長く務める女性に、「絵の女しか見ていない。私を見て。」と詰め寄られる場面の痛々しさ。

晩年はピカソなど若い画家にも支持されて、世間からも評価されるセザンヌだが、そうした場面はあまり詳しく描かれない。そのため映画を通じてセザンヌの印象はどちらかと言うとよくない。しかしダニエル・トンプソン監督は、「太陽のないアトリエでかいた絵なんて!花には香り、木には風、人には性器、それが自然だ。」と叫ぶセザンヌで、彼が何を大事にしたのかをうまく表現している。また、映像でもセザンヌが見つめてキャンバスに刻みつけてきたプロヴァンスの自然をしっかりと映し出す。代表作のサント・ヴィクトワール山の実写と絵画が重なるエンドクレジットの美しさは心に残る。これ映画館で観たかったなあ。

主人公を演ずる男優二人のなりきり振りに引き込まれる。僕がこの映画をセレクトしたお目当ては、セザンヌのモデルで後に妻となる役を演じたデボラ・フランソワ。「タイピスト!」で惚れて以来、大好きな女優さん。そんな興味で観た僕が、セザンヌについてあれこれ考えられたのだから、冒頭に書いたとおり、これは秀作なのだ。




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