返却日が迫ってたDVDがあったのに、このアガサ・クリスティ原作のドラマ「無実はさいなむ」の録画を見始めた僕は、結末が気になって仕方なくなった。結局DVDは観ずに返却して、全3話一気に完走。クリスティものがやっぱり好きだ。
5人の養子を迎えた資産家の夫婦。一家を仕切っていた妻レイチェルがクリスマスイヴの夜に殺害される。犯人とされて捕まったのは、養子の一人で気性の荒いジャック。殺害された時間にはアリバイがあると主張していた彼は刑務所で死亡。それからしばらくした頃、その晩にジャックを車に乗せたという男性が現れて、証言して無実を晴らすと言い始める。夫レイの再婚を控えてギクシャクしていた一家に衝撃が走り、少しずつそれぞれが秘めていた感情と事実が浮かびあがってくる。
アガサ・クリスティ作品の魅力は、謎解きまでの人間ドラマの深み。正面だって結末を見出す探偵役が存在しないこの作品。真実を突きつける痛快さはないけれど、その分だけ誰がこのモヤモヤを晴らしてくれるんだろうとドキドキする。過去の出来事と今を交差させながら進行する編集は、断片的な情報しか与えてくれない。しかも第1話冒頭で示される事件の顛末は、ダイジェストにも程があると怒りを覚えそうな短さ。そこで観客に与えられた事件の概要は新聞記事で読んだ程度のものでしかない。そこに新事実が次々と示されていく。事実が示される第1話、話がこじれる第2話。そしてあの夜起こったことを時系列に初めて示し、落とし前をつける第3話。この構成はなかなか。ハッピーエンドのようで底知れぬ怖さも感じるラストシーン、お見事。
ビル・ナイ御大が謎めいた人物を淡々と演じる。「マイ・ブックショップ」の屋敷に閉じこもった老人役とは、また違った抑えた演技で味わい深い。事件をかき乱す長女の夫である負傷した軍人役、マシュー・グードが「イノセントガーデン」を思いださせる怪しさで好演。
原作とは結末が違うのか。挑んでみようかな。見応えのあるドラマ化でした。