◼️「ラストナイト・イン・ソーホー/Last Night In Soho」(2021年・イギリス)
監督=エドガー・ライト
主演=トーマシン・マッケンジー アニャ・テイラー・ジョイ マット・スミス ダイアナ・リグ
「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督の新作は、60年代ロンドンと現代を行き来するスリラー映画。「ティファニーで朝食を」のポスターが貼られた部屋、レノン=マッカートニー作の「明日なき世界」が流れる冒頭から心掴まれて、ホラーぽい映画苦手なくせに、もうワクワクが止まらない。本筋のネタバレ防止と、気づいたことの備忘録として、筋に関係ないことを好きに語らせてもらいますww。
もう一つの舞台となる60年代ロンドンを示すために、ヒロインが好む当時の楽曲が効果的に引用されているのがなんとも素敵。鏡を通じてシンクロするもう一人のヒロイン、サンディがオーディションで歌うのが、ペトラ・クラークの代表作Downtown。80年代にジョージ・ハリスンがカバーしたI've Got My Mind Set On Youに、ウォーカーブラザーズの「ダンス天国」。
泣きのバラードYou're My Worldのイントロのキーッ、キーッって高音のストリングスを、まるで「サイコ」の劇伴のように使う発想。やるじゃん!映画後半では、血まみれ刃物に瞳が映る演出が怖くって、イタリアの残酷映画テイストだなーと思ってたら、劇中出てくる店の名前が「インフェルノ」。ダリオ・アルジェントのホラー映画(音楽担当キース・エマーソン)へのオマージュなんですと!すげえ趣味の振り幅。エドガー・ライト、すげえな。
そしてテレンス・スタンプがカウンターで演奏の真似をしながら、「君の名を冠した曲だ!」と紹介するのがEloise。「ベイビードライバー」でヒロインの名前の曲があるだのないだの言う場面が思い出されて、映画館の暗闇で「またかい!」とツッコミ入れながら思わずニヤリ。
ストーリーや映像でもワクワクが止まらない。カフェドパリでのダンスシーンは、エロイーズとサンディが入れ替わるコンビネーションがあまりに見事。観客のミスリードを誘いながらも、決して情報量が少ない訳じゃない脚本と映像。これが遺作となったダイアナ・リグの存在感。2時間たっぷりワクワク、ハラハラ、喜ばせたり、怖がらせたりした後で、この映画は僕らにエールを送ってくれる。過去に憧れるのは勝手だが、決していいことばかりではない。過去から学んで前を見ろ、と。ラストシーンの彼女(たち)が眩しかった。
英国ワーキングタイトル社の映画、やっぱり好きだな。